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FRPのヨットの帆(sail)への応用 Vol.136

2019-12-17

 filamentary membrane

The image above is referred from

https://videohive.net/item/sailboat-in-the-ocean-white-sailing-yacht-in-the-middle-of-the-boundless-ocean-aerial-view/24100546

今日のコラムでは、

FRPのヨットの帆( sail )への応用

ということについて述べてみたいと思います。

 

FRPのヨットの帆( sail )への応用とは

FRPというと、一般的にイメージされるのは繊維がぎっしりとつまり、
ある程度の厚みと複雑な形状を有する物、
または高剛性を活かした長尺のものというものではないでしょうか。

実際、そのようなものが多い一方で

「非常に薄物で繊維量も多くない」

というアプリケーションがあることは盲点かもしれません。

 

この材料形態は filamentary membrane とも呼ばれ、
繊維で補強された膜ですが、このアプリケーションが

「ヨットの帆( sail )」

です。

欧州ではニーズの高いこのアプリケーションについて、
Incidence Technologies のリリースを一例に考えてみたいと思います。

Incidence Technologies のHPは以下の所で見ることができます。

https://www.incidence-sails.com/en/

ヨットの帆は異方性を活用した設計が非常に有効なアプリケーションの一つです。

帆の形はある程度制約がある一方、
その帆が風を受けた時にどれだけ効率的に推力へと変換できるのか、
というのは異方性設計の典型例といえます。

しかも基本的には平面である一方、
それが三次元変形したときの異方性を考慮するというのは、
まさにFRPの設計の基本です。

 

FRPのヨットの帆( sail )の例

Incidence Technologies の D4 という技術を例に見ていきます。

まずは以下の動画を見るのがイメージを持っていただくのに最良かもしれません。

何故ヨットの帆というアプリケーションに filamentary membrane が必要なのかというと、
形状維持と軽量化とのことです。

 

帆が最適な形状で維持されることで受け止めた風の推力を効率良く船体推進の動力へと変換させ、
また軽量にすることで帆を支えるマストの形状を簡易的かつ細くすることも可能になり、
操縦性を高めることはもちろん、結果的に船体全体を軽量化でき、また航行スピードを上げられるという側面もあるようです。

 

繊維の配向に加え繊維材料の選択も重要

ここで重要なのはどのような方向に繊維を配向させるのか、
ということはもちろんのこと、

「どの繊維を選択するのか」

ということが極めて重要とのことです。

選択する繊維の例として以下のようなものが挙げられています。

Carbon : 炭素繊維
Aramid : アラミド繊維
Dyneema : ダイニーマ(高密度ポリエチレン)
Vectran : ベクトラン(結晶性ポリアリレート)

アリレート繊維はあまりなじみがないかもしれませんが、
炭素繊維と合わせて卓球のラケットに使われている、
というのを聴くと多少の馴染みが出てくるかもしれません。

ボールを打つ時に早く跳ね返しすぎず、
スピンをかける猶予を得るためにボールをラケットにできる限り長時間接触させたい際に、
前者は高弾性の炭素繊維、後者はアリレート繊維を用いているとのことです。

https://www.butterfly.co.jp/story/alc/

尚、ベクトランの原料は液晶ポリマーとのこと。
液晶ポリマーについては過去に以下のサイトでも述べたことがありますので、
そちらも合わせてご覧ください。

はじめてのFRP 液晶ポリマー( liquid crystal polymer )とは
https://www.frp-consultant.com/2018/11/08/liquid-crystal-polymer/

 

話を元に戻します。

一例として引張弾性率を見ていきます(一般的な特性を示します)。
単位はGPa、は出典元です。

Carbon : 200~400
http://www.torayca.com/lineup/product/pro_001_01.html

Aramid : 115
https://www.christinedemerchant.com/aramid_characteristics.html

Dyneema : 66-124
http://www.mse.mtu.edu/~drjohn/my4150/props.html

Vectran : 75
http://www.matweb.com/search/datasheet.aspx?matguid=8552ae3f68e8401483d0641b8244792e&ckck=1

弾性率を見ただけでもこれだけの違いがあることがわかります。

これらを方向と組み合わせることで様々な帆ができそうである、
ということはイメージできるかもしれません。

 

filamentary membrane のつくり方

つくり方については上の動画をご覧いただければと思いますが、
まず最初に接着性のあるフィルムを床に置き、
そこに繊維を載せていきます。

繊維側にも粘着剤がついているとのことです。

上記の粘着剤を乾燥させた後、
表層に第二のフィルム層を積層し、
サンドイッチ構造にします。

空気が抜けるように面を全体的に押し出し(いわゆる脱泡工程)、
カバリングした後に全体を脱気することで大気圧で全体を押し付けた状態で、
数トンの荷重と熱をかけ繊維と膜を融着させます。

ポイントはこの主となる膜が

「熱可塑性である」

ということでしょう。

※ 明確には書かれていませんが、熱可塑性フィルムが主体であると考えています。

熱硬化は靭性が低いため、帆のような用途で変形させるとヒビが入る可能性があります。
やはりここはしなやかな熱可塑性樹脂を主体としたフィルム状にするのが鉄則です。

 

 

filamentary membrane の技術に関する留意点は

今回ご紹介したアプリケーションから考えるべきポイントは2点です。

一つは異方性を考慮したシミュレーションの高い必要性です。

今回のように連続繊維でしかも薄物の場合、
繊維の配向による全体への影響はかなり顕著に出るはずです。

これを試行錯誤でやるのは非効率的であることに加え、
顕著な異方性はシミュレーションの得意とするところですので、
使わない理由がありません。

しかしここで盲点があります。

まずは複数種の繊維を用いることによる弾性率、ポアソン比の設定です。
複数種の繊維を用いた複雑な配向となるため、これをどのように表現するのかがポイントになります。
繊維の一つ一つの特性を入れていきながらモデリングをするというのはかなり大変であるため、
もしかするとある程度平均化したFRPの特性を入れ、
炭素繊維やベクトランのような比較的弾性率が顕著に高い繊維、
または低い繊維を用いる箇所に境界条件を設定して異なる特性を入力しているかもしれません。

もう刺突重要なのがシミュレーションを妄信せずに、

「シミュレーションの結果と実際の試験の結果を照らし合わせ、
誤差が最小化するようシミュレーション側の条件(拘束条件、境界条件)を修正する」

ということです。

あくまで現実の結果が最重要という軸をぶらさないことが肝要です。

もう一つは熱可塑性樹脂の柔軟性とFRPの異方性を生かしているということです。

今回ご紹介したFRPの帆への適用は、

「熱可塑性FRPの新たな展開を示唆している」

ということを理解することが重要です。

FRP = 構造部材である

という先入観を持っていてはなかなか出てこないコンセプトだったと思います。

薄物の熱可塑性樹脂の強みであるドレープ性を活用していることはポイントです。

しかも、異方性を積極的に活用することから、
FRPを用いなければならない動機付けも十分です。

技術的な動機付けとそれによる付加価値が提案できるという意味で、
今回のようなアプリケーションを想定しておくというのは、
今後の業界の発展にも極めて重要でしょう。

 

 

いかがでしたでしょうか。

熱可塑性樹脂と強化繊維を組み合わせた薄物の材料が、
新たな展開を示している好例といえます。

まだまだこのような用途は他にもあるかと思います。

身の回りにあるようなものも含め、
展開できるものはないのか。

そのような好奇心に近い目線こそが、
FRP業界のさらなる発展に重要だと考えます。

 

 

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