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室温保管が可能な 高速硬化型 CFRPプリプレグの実用化研究開発

2018-10-19

DIC株式会社(東京都)、セーレン株式会社、福井県工業技術センターの3者による研究開発が、
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の大型研究事業に採択された、
とのリリースが先日出されました。


DICと福井県工業技術センターのリリース記事は以下のページで見ることができます。


DICのリリース記事
http://www.dic-global.com/ja/release/2018/20180823_01.html


福井県工業技術センターのリリース記事
http://www2.pref.fukui.lg.jp/press/view.php?cod=010e8a15348112702e&whence=16

 

 

今回はこのリリース記事を参考に近年の 高速硬化型 の熱硬化性FRPプリプレグについて考えてみたいと思います。

 

 

室温寿命の長い高速硬化FRPプリプレグは近年の注目技術


昨今の熱硬化性樹脂の発展は目を見張るものがあります。


そして5年ほど前から熱硬化性樹脂の硬化プロセスの高速化、ということが注目され始めてきた印象です。


イギリスの PRF composite は今から5年ほど前に140℃で4分硬化という RP-570 という材料をリリース。
以下のURLでカタログを見ることもできます。

http://www.prfcomposites.com/wp-content/uploads/2014/08/RP-570-ed.-1.0-Jul-2014.pdf


このことは過去に「4分硬化の高速硬化エポキシプリプレグRP-570」という題目のコラムでご紹介したこともあります。
 


それ以外にも、
Araldite(R) LY 3585 / Aradur(R) 3475(HUNTSMAN社製:115℃環境下で硬化時間2分以下 / 硬化物Tg:105から115℃)、
EPIKOTE(TM) Resin TRAC 06605 / EPIKURE(TM) Curing Agent TRAC 06608(HEXION社:150℃環境下で硬化時間3分以下 / 硬化物Tg:115から125℃)といったものもあります。

 


しかし硬化が早いと材料の室温寿命が短いため、材料管理に問題があるという観点もありました。

 

そんな状況の中、一石を投じたのがBMW7 シリーズのピラー補強材として適用されたことで注目された HexPly(R) M77 。
この材料は160℃で90秒硬化が可能である一方、室温で6週間の寿命があります。

このことについても以下のコラムでも書いたことがあります。

 

※過去のコラム

BMW 7 series への 高速硬化CFRP の適用
 


それ以外にもいくつか類似の材料はありますが、冒頭ご紹介した材料が

・室温寿命

・高速硬化

という2つの特徴を有しており、期待の高まる熱硬化性FRPのトレンドに沿った動きであることがわかります。

 


発表された材料は150℃環境下で1分硬化ができるとのこと。

室温保管については具体的にどのくらいの期間が保管可能なのかは述べられていませんが、
既に市場にあるものと差別化するのであれば最低でも3カ月以上の寿命があるのではないか、
と推測しています。


いずれにしても、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)平成30年度「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」実用化開発フェーズの大型研究事業に採択と書かれている状態なので、実用化にはもう少し時間がかかるのかもしれません。

 

本記事から考えるべきことは何でしょうか。

 

 

成形時間の観点だけだと熱硬化は熱可塑に対して有利になりつつある


一昔前は熱硬化というとオートクレーブでは全成形工程で4、5時間、プレスでも30分以上は熱と圧力をかけ続けなくてはいけないのが常識でした。


15年前に当時最新の熱硬化性プリプレグで成形時間が15分というのが出たのを見て驚いたのを覚えています。

それが今や、3分以下が当たり前になりつつあります。


条件によっては1分以下のものもあるくらいです。
エポキシベースの熱硬化性樹脂としては信じがたい硬化速度です。


5年ほど前まで、熱可塑性樹脂を長繊維や連続繊維と組み合わせる場合のメリットとして、


「成形時間(タクトタイム)が短い」


というのが聴かれましたが、最近は様々なものの一面しか示していないという認識になりつつあります。


当時は恐らく、射出成形を想定しての比較だったと思います。


実際は金型を冷却しなくてはいけないケースも多いことから、
そもそも熱可塑性の長繊維や連続繊維の成形時間はそれほど短いわけではありません。

その上で熱硬化性樹脂が脱型できるレベルの成形時間が数分となってしまえば、
圧倒的に熱硬化性材料の方が有利です。


金型の温度も一定にできるため、工程管理も楽になります。

 

 

熱硬化性FRPの硬化状態は必ず化学分析技術を用いて評価する


一方で注意点もあります。


熱硬化性FRPを成形する際、何を持って成形が完了した、言い換えると樹脂の硬化が想定したところまで進んだのか、ということをきちんと把握しなくてはいけません。

○○℃でXX分で成形可能と書いてあることは多くの場合、


「脱型できる状態まで硬化が進んでいる」


ということを示しているにすぎず、機械特性、物理特性を発現させるためには、
ポストキュア(後工程での加熱硬化)が必要である、というケースもあります。


この辺りはガラス転移温度変化やDSCの発熱ピーク由来の硬化度を評価しなければならず、
外見では何もわかりません。

 

高分子評価技術をきちんと理解し、
材料にとって適した工程設計ができるのか、
というところまで考えを進めることは必要条件といえるでしょう。

 

 

室温保管が可能というの文言が量産でも通用するか


上記で紹介した HexPly(R) M77 は室温で6週間の寿命があるとのことでしたが、
これがある程度限られた条件下であるという現実は意外にも知られていません。


私はクライアントの依頼でHexcelの工場を2年ほど前に見たことがありますが、
M77の輸送には専門のトラックが必要で、それらが駐車場に何台も並んでいたのを覚えています。


室温は室温でも例えば湿度等のパラメータが入ってくると状況は変化するのです。


さらにいえば室温寿命があるといっても極寒のロシアかアフリカ大陸かでは当然ながら状況は異なります。

 

実際に材料を使う場合は、材料がさらされる環境を可能な限り一定化し、
成形時への影響を最小化するという取り組みが、
結局のところ量産では必須となるのです。

 

材料にとっての寿命範囲であっても、
-273.15℃以上の環境下では硬化反応は必ず進んでいます。

材料メーカーにとって寿命範囲といっているものが、
成形加工メーカーをはじめとした川下のユーザーにとって範囲内かは別の議論なのです。


私も社内でCFRP製品の試作をやっていたとき、
材料を買いたての時と冷凍保管を1カ月した後のもので、
成形状態が大きく変化することを体験しました。


きちんと自社内で適した材料の保管条件と期間を、
成形加工の結果などと比較しながら化学分析手法を使って評価することが重要でしょう。

 

 

いかがでしたでしょうか。

海外のプリプレガーや材料メーカーがこぞって商品化している 高速硬化型 の熱硬化性FRP。


これまでこの手の製品開発に後ろ向きだった日本の企業が取り組んでいるという事実は、個人的にはとてもうれしいと感じています。
やはり、海外だと材料の輸送などが大変だからです。

今回発表された材料がどのような特性を有するのかは一切発表されていませんが、
この辺りは上市を楽しみに待ちたいと思います。

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