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BMW 7 series への 高速硬化CFRP の適用

2016-01-20

業界企業の買収など、最近動きの激しかった Hexcel が遂に 高速硬化CFRP (160℃で1.5分成形)を BMW 7 のBピラーへの適用すると発表しました。

http://www.hexcel.com/news/market-news/news-20160114


いつも前進的な材料で業界をにぎわせる Hexcel だけにどうなるのか非常に楽しみです。


今回 BMW 7 に適用するのは HexPly® M77 という高速硬化樹脂システムのプリプレグです。

Hexcelは2年ほど前からこの材料の宣伝は行っていました。


一例は以下の動画です。

みてもらえばわかるように当時はスキー板のような量はそれほどでないが、
利幅を持たせたいというHexcelらしい製品をベースに編集されています。

 

動画の内容を見ていきます。

 

まず驚いたのは表題にもなっている高速硬化。


150℃環境で2分で硬化できると書かれています。


もはや熱可塑と何ら遜色ないレベルです。


予備加熱もいらないことから熱可塑よりも扱いやすいかもしれません。

 

そして私が個人的に最も目を奪われたのが以下の場面。

HexPly_M77_information
( The image above is referred from https://www.youtube.com/watch?v=TILDeWVdQ50 )

 


どれが注目すべき内容かわかりますでしょうか。

 

実は目付です。


一番軽いものが48gsm、一番重いものは1200gsmと書かれています。


1200gsmも驚きましたが重いものはNCF(実際、multiaxial と書いてあります)などの複層構造も考えられるのでわからないでもありますが、やはり48gsmという軽さです。


プリプレグとしての目付でしょうから一般的な感覚からいくと織物で厚さは60μm程度、UDだとすると厚みはなんと32μm程度です。

これだけ極薄のプリプレグをラインナップに備えていることに対し正直驚くのと同時に、
Hexcelが開繊技術を持っていることを示唆しています。


もう一つ驚いたのは室温で6週間というシェルフライフです。


保管が非常に楽であることを示唆しています。


従来の熱硬化性CFRPの保管期限は室温だと2週間程度。


室温寿命が3倍に延長されたことを意味しているのです。

室温寿命が長くなるということは、それだけ量産における使い勝手が良くなるということに直結します。


量産ラインの生産計画に対して柔軟に対応できるからです。

一度冷凍した場合、結露による材料劣化を防ぐため半日は冷蔵庫に入れ、さらに室温暴露して半日置くといった工程が必要です。


つまり解凍の工程だけで1日は必要になってしまいます。

室温保管が可能であればこのような工程が不要となり、工程のスケジューリングに柔軟性が出ます。

とはいえ動画全体を通じてみると何が優れているのかよくわからないと感じた方が居たかもしれません。


そして以下が最新の動画です。

http://bcove.me/jmhh6725

( The video above is referred from http://www.hexcel.com/products/industries/ipreforms)

2年前の動画と比較して自動化が進み、より詳細部分まで公開しているのがわかります。


自動化で注目すべきは画像認識です。


画像の途中にありましたがフィルム接着剤をオペレーターが手で置いた後、
カメラにより異物が無いのかという確認とフィルム接着剤の位置を1mmの精度で認識しています。

画像認識による異物検知のお話は SAMPE Journal Vol.51 No.6 p.23 (2015)にも載っていましたので合わせてご覧いただければと思います。

※ SAMPE Journal のサンプルデータは以下の所で公開されています
http://c.ymcdn.com/sites/www.nasampe.org/resource/resmgr/PDF/Nov_Dec_15_Journal_Partical_.pdf

 

それ以外では硬化時間。

元々早かった硬化時間が、


160℃環境下で1.5分


まで短縮されています。
(硬化温度が150℃から160℃へと上昇しています)


120℃のガラス転移温度を有するエポキシ樹脂としては驚異的な硬化速度です。

結晶化度の管理(結晶性ポリマーの場合)や高い成形温度という熱可塑性CFRP(CFRTP)のデメリットを考えると、
熱硬化性CFRPを候補材料から外すということに慎重になる必要もあるかもしれません。

 

 

今回の記事から理解すべきことは何でしょうか。

第一が、


「繊維に対する樹脂の含浸性が最も優れるプリプレグをベースにしている」


という点です。

以前、こちらの記事でもご紹介しましたが繊維への樹脂含浸性はFRPの特性のほとんどを決めるといっても過言でないほど重要です。
 


成形性を求めるために最近はやっているRTMやインジェクション(オーバーインジェクション含む)とは一線を画すものです。


もちろんそれほど高い物性が必要ないのであればインジェクションでも十分でしょう。

ところがそれほど物性が必要ないのであれば、そもそもFRPでなくてもいいのではという根本的なところでの議論が必要になるケースもあります。

やはりFRPの特性を発現させるにはプリプレグが現段階では最適である、ということは再度述べておきます。

 

もう一つが、


「マトリックス樹脂の改質を主軸にしている」


というところです。

 

Hexcelはもともと材料メーカーです。

あくまで材料、特にマトリックス樹脂の改質をベースに川下(後工程)に降りていくという戦略を取っています。

 

今は成形加工の自動化を目指した設備メーカーの注目が目立つ最近のFRP業界ですが、Hexcelはあくまで主軸を材料に見据え、その材料を活かすための機械設計を後追いで行っているのです。


当然ながら材料から工程における情報の一貫性がある方が品質的にも安定しやすい。

業界の動向に流され過ぎず、自らの強みを主軸においたHexcelの戦略は流石だと思います。


ただし、Hexcelの進め方も十分とは言えません。


なぜならば構造設計という全体を見渡すところまではできていないからです。


今回FRPの設計スキルを有するBMWと組むことによりこの辺りの知見を吸収しようとしている戦略がみてとれます。


あとは、利益を優先しすぎるがゆえに材料や工程に関してひた隠しにしてBMWとのコミュニケーションがうまく取れない、
というよくある共倒れのスパイラルに陥らないことです。


隠すということはそれだけお互いのコミュニケーションに障害が増えることにつながるからです。


もちろん、ノウハウまでは出さないようにするといった最適化された知財戦略が重要なのは言うまでもありません。


Hexcelの新しい材料がFRP業界動向の流れを変えることにつながるのか。

これからも注視していきたいと思います。

 


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