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はじめてのFRP 引抜成形 と最新動向

2018-08-15

今日は はじめてのFRP として 引抜成形  ( Pultrusion ) について述べてみたいと思います。

 

引き抜き成形 の概要

言葉で説明するよりも以下の動画を見ていただくとイメージを持つことが可能かもしれません。

 

繊維を引きそろえて、マトリックス樹脂を塗布し、
それを金型に導入して成形と加熱硬化を進める、
という工程を連続的に進めるのが引き抜き成形の概要です。

 

アプリケーションとしては電気特性を中心にGFRPが多い

アプリケーションとしてはガラス繊維が主体として、
上記の動画でも述べられていますね。

特に注目すべきは 誘電特性 でしょう。

これだけ情報化社会になってくると無線経由での情報のやり取りは必須。
電波透過性のいいガラス繊維はFRPの中でもかなり有望な材料として注目されています。

実際上記動画の中でも電波塔などのアプリケーションが提案されていますね。

GFRPは基本的に絶縁性が高く、
比誘電率も誘電正接も低い傾向があります。

誘電率というのは「分極のしやすさ」を表す指標であり、
分極しやすいほど値が大きくなります。

誘電率は、

電束密度 = 誘電率 X 電場

であり、周波数と温度の関数です。

 

一般的には真空の誘電率との比である「比誘電率」で表します。

以下のGF/PPSの例を見てみます。

https://www.toray.jp/plastics/torelina/technical/tec_020.html

23℃、1MHzの環境下でGF/PPSは、4.3の比誘電率を示しています。

この値は固体物質でいうと以下のようなものと同じくらいの値です。

KCl    4.8 ( 温度:20℃、 周波数: 1MHz?10GHz )

水晶    4.5 ( 温度:20℃、 周波数: 1KHz )
(光学軸に垂直)

出展:理科年表(2017年度版)
https://www.rikanenpyo.jp/

また電気エネルギーを熱に変換する誘電損の指標である誘電正接( tanδ )は、
低い方が交流電圧を印加した場合の発熱が低くなります。
(このことは、上記の東レのHPにも書かれています)

同様にGF/PPSを見てみると 40 X 10-4 です(23℃、1MHz)。

同じような誘電正接を有するのは例えばグラフト紙で、

45 X 10-4 (20℃、1KHz)

です。

出展:同上

参考までにですが水晶の誘電正接は 2.0 X 10-4 ( 温度:20℃、 周波数: 1KHz )でありかなり小さいですね。
もちろん同じ周波数ではないので一概には比較できませんが、
少なくともGFRPが絶縁材料として高い性能を有するイメージは持っていただけるのではないかと思います。

 

設計的な観点から見るべきこと

本コラムをご覧の方には設計の観点が最重要であると常々お伝えしていることもあり、
まずは工程云々よりも設計的に見たらどうなのか、
について先に述べたいと思います。

上記の誘電特性に加え、設計の観点で大切なのは、

– 一方向への強化繊維配向が必要

– 基本的には同一断面である

という2点が満たされる場合において引き抜き成形は効力を発揮するということです。

逆にいうと上記の2点、またはいずれか1点に該当しないものに対して引き抜き成形を適用する、
といった考えはスタートラインからずれているということになります。

特に同一断面であるという対象物形状は引き抜き成形をプロセスとして想定する際の前提条件であるといっても過言ではありません。

 

引き抜き成形工程

成形プロセスのイメージとしては、以下のようになります。

1. 繊維の供給

繊維の破損を最小化しながら、
かつ最終製品形状に近い状態まで繊維を配列させる。

2.マトリックス樹脂の含侵

開放式と密閉方式がある。
開放式は排気設備が必要、外部からの異物混入というリスクがある一方、
含侵状態を目視検査することが可能。

密閉式は外気に接することが無いため開放式の設備やリスクが低減する一方、
含侵状態は出てくるまでわからないという欠点がある。

近年の引き抜き成形のトレンドとしては密閉式に移行しており、
後述する金型による成形と含侵が同時に行われるケースが多い。

 

3. マトリックス樹脂硬化による成形(成型)

金型内での熱による線膨張由来の圧力を成形圧力として、
規定断面に成形。

余剰樹脂は金型でそぎ落とされるためVfコントロールも比較的やりやすい。

 

4. 切断

成形された製品は規定長さに切断される。

また常に引張られている状態であるため、
製品が損傷しないように気を付ける必要がある。

 

 

引き抜き成形について言及している代表的な日本企業のHPの抜粋

引き抜き成形自体は1960年代から普通に行われてきている歴史あるプロセスです。

日本でもこの工程を売りにビジネスをしている企業が何社もあります。

例えば日東紡です。

こちらは繊維メーカーとしては大手ですね。

以下のURLに引き抜き成形の代表的な説明がされています。

http://www.nittobo.co.jp/business/glassfiber/about/method/pullout.htm

基本的には引き抜き成形に用いる強化繊維のほとんどがガラスロービングであることを考えれば自然ですね。

それ以外には引き抜き成形が一方向の強化が中心であるということに付加価値をつけようという観点で、
ワインディング技術を組み合わせている福井ファイバーテックがあります。

http://www.fukui-fibertech.co.jp/pulcom/about/index.html

異方性が強すぎると構造体の設計ができないという顧客ニーズに応えた技術といえるでしょう。

 

引き抜き成形の近年動向

近年の引き抜き成形のトレンドはずばり、

「熱可塑性樹脂をマトリックスとした引き抜き成形」

です。

ある程度材料に感覚のある方だと、

「かなり難しいことをやろうとしている」

ということがわかるかもしれません。

熱可塑性樹脂をマトリックスとする場合、
プロセス上の最大の欠点は

「溶融時の粘度が高い」

ということです。

粘度が高いということは繊維への含侵が難しい。

ドロドロしたものを細かいところに押し込むのが難しいのは誰の目にも明らかでしょう。

この原理原則の部分で難しさがある故、
課題が多いのが現実です。

その一方で、熱可塑性樹脂は靭性が高いなど、
熱硬化には無い特性があるため適用したいという動きは常にあるといっても過言ではありません。

そんな中、工程の途中で重合反応を行うというアプローチが出てきています。

一例が「 CQFD Composites 」というフランスの企業です。

以下のHPから見ることができます。

http://cqfd-composites.com/

 

この企業は低粘度である重合前のモノマーを繊維に含侵させ、
その後、熱をかけて従業を行い熱可塑性樹脂にするという、
いわゆる現場重合のコンセプトで引き抜き成形をやっています。

用いているのはカプロラクタムです。
PA6の典型的重合法ですね。

以下のHPに概要が書かれています。

http://cqfd-composites.com/reactive-thermoplastic-pultrusion/

 

 

現場重合反応ではどのような反応が起こっているのか

ここで上記のPA6に関連して、少しだけ有機化学の話をしてみます。

一般的な重合反応はアルケンやジエンといった不飽和結合(いわゆる二重結合や三重結合)に、
開始剤が付加して活性な中間体ができてこれが別の不飽和結合を有する分子に付加し、
さらに同じ反応が第三の不飽和結合を有する分子に結合する、
という鎖状伸長ポリマー( chain-growth polymer )です。

その一方、ポリアミドは各結合とは無関係にできるため、
段階伸長ポリマー( step-growth polymer )と呼ばれています。

PA ( ポリアミド )の場合はその反応由来となっているのは電気陰性度( electronegativity )です。

一般的な化学結合は、電荷の偏り度合いから共有結合とイオン結合で説明されることが多いのですが、
じつはその中間に共有結合とイオン結合の中間に位置する

「極性共有結合( polar covalent bond )」

というものがあります。

ポリアミドの原料であるアミンはこの極性共有結合に該当します。

電荷の偏りを示す際、より強く電子を引き寄せる原子にはδ
電子を引張られる原子にはδ+と書くことが一般的です。

分子全体で見た時の極性(いわゆる電気的偏り)を双極子モーメント( dipole moment )と呼びます。

双極子モーメントを応用した計測事例の一つに分光分析があります。
以前、ラマン分光を書いた時に双極子モーメントについても少し記載したことがありますので、
以下のコラムも合わせてごらんください。

CNT の存在を確認する ラマン分光

アミンは官能基の一種であり、窒素原子が電子を引き寄せ、
それに応じてアミンに結合する炭素原子が電子が引き寄せられる状態となります。

本来はこの上で分極率(この辺りも上記のコラムで少し述べています)も考えなくてはいけませんが、

「分子中の官能基の電子が過剰な部位と、別な分子の官能基の電子不足な部位とが反応すること」
(※参照:マクマリー有機化学:東京化学同人)

という原則がアミンがポリアミドに変化する原則にあるということを理解しておくことは重要です。

さて上記のカプロラクタムの場合は一つの分子の中に既にNHとCOが入っており、
これが開始剤によって開環し、一般的にはアニオン重合のプロセスで重合が進行します。

そしてこのアニオン重合の開始には酸無水物が一般的には使われるということも知っておいて損はないでしょう。

追加の情報として酸無水物を使うことが、
CQFD Composites のHPでもこの開環反応が水と酸素に敏感である、
と述べていることの背景にあると思います。

 

引き抜き成形での評価

引き抜き成形で得られた製品に対する評価について、
あまり標準的なものはないことに注意が必要です。

そんな中、引き抜き成形において、
材料の劣化度合いを評価するASTM試験規格が3年ほど前に発表されたことは、
以下のコラムでも述べたことがあります。

熱可塑性FRPの 引き抜き成形 ASTM 試験規格発表

尚、参考までに発表されたのは以下の2つの企画でした。

– Test Method for Measuring the Effect of Freeze-Thaw Cycling on a Thermoset Pultruded Composite (D7792)

– Test Method for the Evaluation of the Effects of Elevated Temperature and Moisture Conditioning of Pultruded Fiber Reinforced Polymer Composites (D7992)

このような規格が存在するということは、
上記の評価を行わないと何らかの市場問題につながるケースが過去にあった、
ということを示唆しています。

実際のアプリケーションを想定しながら必要な評価はきちんと行う、
という原則を忘れずに、評価の一案にしていただければと思います。

 

 

引き抜き成形を検討するにあたっての留意点

引き抜き成形を行っている企業や該プロセスを製品製造プロセスとして適用しようとしている企業の話を踏まえ、留意点を書いてみたいと思います。

1. 金型に対する高いノウハウが必要

引き抜き成形はほぼ金型技術といっても過言ではありません。

よく材料が、という方も居ますが、
間違いなく金型です。

金型をどのような構造にするのかということが、
引き抜き成形の成功可否の鍵だと思います。

これが背景にあるためか引き抜き成型メーカや研究機関に行くと、
必ず金型を隠します(主に海外のラインしか見たことがありませんが)。

ここはそれこそノウハウですので気持ちは理解できるところです。

その一方で、試作レベルでできるというのと、
量産として耐えられるのかは全く別次元の話。

金型の耐久性やメンテナンスをどのようにやるのか、
ということについて、先行で金型サプライヤと話をきちんとしておく、
ということが量産という観点では重要といえるでしょう。

 

2. 引き抜き成形はそれほど生産性が高いわけではない

前提として比較的単純な断面形状で長尺ものであれば有力なこの成形プロセス。
上記の前提が満たされていない場合、一言で言いますがそれほど生産性が高い工程とは思えません。

引き抜き成形が連続工程で製品を製造できるのはその通りですが、
そもそも強化繊維の長さ(炭素繊維のトウやガラス繊維のロービング長さ)が限界です。

さらに言うと製造途中で繊維が端部からほつれる、
マトリックス樹脂が金型内(特に出入り口付近)で異物として発生する、
といったことが起こると工程が連続である故、
多くの製品が不合格となる可能性もあります。

連続成形というのは一度問題が起こると問題発生の後の製品はすべてダメになるという問題と表裏一体であることを認識しておくことが肝要でしょう。

 

3. あくまで成形方向(長手引張方向)への強化が主体である製品に対して適用する

いつも話を聴くごとに違和感があるのですが、

「異方性の無い製品を引き抜きで作りたい」

という話をされる方が国内外でいます。

冷静に考えていただければと思うのですが、
材料を常に「引張」ながら「抜き取る」というのが引き抜き成形の基本であると考えれば、
成形方向(長手引張方向)に強化された異方性材料ができるのは原理原則上不可避です。

異方性の無い材料という時点でそもそも複合材料を選定することが誤っていると感じますが、
そこに目をつぶっても引き抜き成形にそれを要求するのはあまりにもおかしな話です。

工程のコンセプトを今一度冷静に考え、
引き抜き成形が本当に妥当な工程なのかについて、
今一度考えてみてはいかがでしょうか。

 

4. 断面にアンダーカットがあるものについては効力を発揮する

私が引き抜き成形に最も期待するのはここです。

オープンモールドやインジェクションといった一般的な金型成形において最大の敵といえるアンダーカット。

ここについては引き抜き成形は抜群の力を発揮します。

金型に対して左から右に材料を動かすというこのコンセプト故、
アンダーカット断面の製品成形が唯一可能といっていいかもしれません。

単純同一断面形状だがアンダーカットがある。

そのような成形物に対しては是非引き抜き成形を成形プロセスとして検討することをお勧めします。

 

いかがでしたでしょうか。

今日は引き抜き成形を中心に述べてみました。

引き抜き成形はFRPにおいて主力の成形方法の一つであることに変わりはありません。

その一方で、その工程固有の強みと課題があるのは他の工程と同じ。

全体を俯瞰してポイントをよく理解した上で種々の議論を進めることの重要性を再確認いただければ幸いです。

 

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