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高分子界面 と 接着 とその分析に関するセミナー出席

2018-06-18

先日、ご招待を受けたこともあり「 高分子界面 と 接着 」に関するセミナーに聴講者として参加してきました。
分析等の受託企業である 東レリサーチセンター 様が主催したものです。


会場からはほとんど質問が出なかったので自分の質問をしやすかったこともあり、
講演者と簡単なやり取りもできたことから非常に勉強になりました。


本日のコラムでは聴講した中で特に印象に残ったことについて述べた後、
産業界における接着ということについて私の考えを述べてみたいと思います。

 

接着に適した破壊形態は クレイジング

非晶性ポリマーが接着媒体の場合に、接着や融着に適した破壊形態はなにか、ということの話です。

今回聴講した接着に関する評価方法は非対称ダブルカンチレバービーム( ADCB )法で、
産業界で構造設計をやっていた私はあまり用いない評価方法です。


下記のページの中ほどの図5に概要が示されています。

https://staff.aist.go.jp/s.horiuchi/newpage1.html


DCBはFRPの破壊靭性評価でも用いますが上記の評価方法を何故使うのかな、
と思いましたが、恐らくサンプルが非常に小さい、そして薄いものを評価する、
ということが動機なのではないかと考えます。

実際、上記のページではポリマーペレットをシリコンウェハに挟んでサンプルを作製した、
と書かれています。


破壊モードはIに近いですが、厳密には違います。
少なくとも上記のページでは破壊モードについては述べられていません。
均質材を前提とした評価方法ですね。


話を戻します。


クレイジングというのは一般的にいうと凝集破壊のことです。

接着剤そのものが破壊する、つまり接着強度が接着材料の力学特性を上回る、
という状態です。


結論から言うとこのクレイジングの状態まで接着(融着)状態をもっていければ、
接着のための条件の最適化という観点ではある程度の段階まで達しているという評価になる、
というのが講師の方の話でした。

これは私も同意見です。


クレイジングの状況はサンプルを目視、または光学的にみることでも評価可能ですが、
よりミクロで見るのであれば電子顕微鏡で見ることも可能です。

高分子同士の融着の場合はクレージングが起こると表面にディンプルが生じる、
ということがわかっているようです。


クレイジングを含め接着(融着)における界面強化メカニズムは3つの領域に整理されており、

1. 分子切断
2. 分子鎖引き抜き
3. クレージング

とのこと。


同じ接着(溶着)条件であれば界面の厚みが10~15nm程度になるとクレージングの状況になってくるということもわかっているそうです。


上記の話の多くは非晶性かつ高分子同士の話が前提となっている部分はありますが、
整理されている話でとても分かりやすかったのが印象です。

 

高分子界面 の分析方法

材料を主に主業務とされる方は「界面」という言葉に敏感に反応することが多い印象です。

今回のセミナーでも比較的多く述べられていました。


材料の分布状況を調べるというのが界面分析の基本ですが、
高分子はい取材間で密度差があまりないことからコントラストがつけにくい、
という事実が分析を困難にしているというのが話の出発点です。


本セミナーで紹介されていたのは以下の3つの技術です。


EFTEM- 非弾性散乱電子のエネルギー分光
STEM- 弾性散乱弟子の散乱角度
LV-SEM- 二次電子のエネルギー分光


上記のうち EFTEM、LV-SEMについて簡単に述べてみます。

EFTEMというのは Energy Filter TEM のことで、
エネルギーフィルターを通過した 非弾性散乱電子 を用いた分光を応用する設備です。
本測定ではバックグラウンドにぼやけを生じさせる 非弾性電子散乱 をフィルターで除去し、
それ以外の非弾性電子は電子フィルターにより 損失エネルギーレベル で振り分けることで、
特定の損失エネルギー電子で結像させることでコントラストを強化することが可能になるようです。

尚、非弾性散乱電子をフィルターにより分光した上で、
損失エネルギー値を計測する手法を、

電子エネルギー損失分光法 ( Electron Energy Loss Spectroscopy : EELS )と呼ぶそうです。

この辺りは以下のHPによりわかりやすく書いてあります。

https://staff.aist.go.jp/s.horiuchi/EFTEM3.html


TEMは弾性電子散乱電子のみで計測している、
ということは今回のセミナーでEFTEMという名称に出会ってはじめて知りました。

大学院にいた頃はTEMで金属ナノ粒子の観察と分析をしていたので、
像がぼやけて大変、それ以前に水溶性のサンプルがメッシュにのらない、
といった苦労が思い出されました。

 

また LV-SEM は Low Vacuum SEM のことで 低真空SEM とも呼ばれています。

これはその名の通り、一般的なSEM観察よりも真空度を落とした状態で観察するものです。

低真空のためにチャンバー内に残留する分子と電子の衝突により生じるプラスイオンで帯電を中和できるため、
金属のスパッタリングなどのコーティングをしなくてもサンプルの観察が可能である、
ということが最大の特徴です。

そのため、有機物の観察に向いています。

この辺りは以下のページの第5項に概要が書かれています。

https://www.jeol.co.jp/applications/detail/887.html


ここでのポイントは二次電子情報によるマッピングをどのようにして高精度で行うかということです。

鏡体内に備えられた環状の検出器である、  In-Lenz検出器 がポイントになるとのこと。
試料から発生した比較的エネルギーの低い二次電子を正伝レンズで鏡体内に巻き上げて、
レンズ内に環状に配置された In-Lenz検出器 で検出し、
試料の凹凸情報に敏感なエネルギーである二次電子を選択的に調べることが可能、
と上記のaistのURLに書かれています。

加速電圧を下げることで最表面を調べることも可能である、
ということはセミナー中に述べられていたポイントだと思います。


上記のように様々な解析技術がありますが、
どの技術も元素分析に主軸が置かれていることが特徴です。

基礎研究の段階では元素分布レベルのことは理解しておかないといけない、
というロジックが根底にあるように思います。


ただ産業界の最前線の観点から見ると、あまりミクロの評価に入りすぎると全体が見えなくなる、
ということにも注意が必要です。


あくまで優先順位をつけて何をどこまで見るかという俯瞰することが重要であることは付け加えておきます。

 

高分子同士の拡散は長時間が必要なものがある

この話も非常に興味が持てました。
一例として紹介されていたPS(ポリスチレン)の溶融接合で、
界面厚みと接着強度を調べたところ、
15nmという一般的にクレージングするのに必要な融着層厚みを達成するのに、
1000分以上は必要だという実験結果です。

一般的には同種の高分子間では拡散速度が低いとのことで、
このあたりは一般的な物理化学である混合自由エネルギーで解釈できます。


同一種は拡散速度が低い一方、相溶性の異種高分子の組み合わせでは発熱的相互作用で拡散は早くなる傾向があります。


本観点は個人的にはとても重要だと考えており、
反応がどのくらいのスピードで起こるのかを理解することはもちろん、


「そもそも組み合わせを間違えていないか」


ということの理解への一助となります。


上記のような拡散速度の実験ベースでの評価には上述した分析機器によるマッピングは力を発揮しますね。

実際、セミナー中では多くのマッピングの経時変化(どのようにして溶融層が変化するか)について紹介されていました。

 

表面処理と接着の関係


この話は私にとっても意外なものが多かったです。


化学の観点からだと表面処理により活性基を作製し、
それとの間で化学結合(共有結合)、
または濡れ性向上による分子間力発現を達成し、
接着、接合の力を高めるというのが一般的な解釈です。


しかしながら実際のところはそのようなケースだけではないということです。


一例として挙げられていたのがPP同士の融着における表面処理。


事前にプラズマ処理をすることでPP表面にヒドロキシル基(-OH)が増えるが、
水洗するとこれが消えるとのこと。

しかしその状態で融着しても強度には変化が無かったそうです。


その一方で表面処理した面をふき取ると融着強度が低下したとのこと。


化学結合式だけでは解釈の難しいところがあるということを明示しています。

私も似たような経験があります。
金属を表面処理した後にどのくらい保管しても接着可能か、
という評価をするにあたり、経時変化で金属表面には酸化物に由来するピークが増えた一方、
接着強度には大きな変化は見られませんでした。


イメージですべてを語ることの危うさを再確認できたと思います。

 

Hansen の SP値 と接着強度への適用について


このお話は非常に参考になりました。

Hansen の SP値 、いわゆる HSP 値 です。

SP値はご存知の方も多いかもしれませんが、
そこからさらに一歩踏み込んで

– 分散成分
– 極性成分
– 水素結合成分

の3成分に分けて、三次元空間における座標位置で親和性を考えるという古典理論がベースになっています。


この考え方を応用例は以下のような動画でも見ることができます。


例えば、ガラスの接触角を基本としたHSPを三次元空間上に示したものです。


30年間、外に放置した金属製のテーブルの表面をきれいにする混合溶媒を調査するというものです。
(冒頭、ロックがかかりますので音量にご注意ください)


上記の情報は以下のURLから参照させていただきました。

http://pirika.com/JP/HSP/youtube.html

 

上記のページはHSPについて造詣の深い方がHPを作られており、
以下から見ることができます。

http://pirika.com/JP/HSP/index.html


山本 博志 博士 が運用されているサイトですが興味深い内容となっています。

山本博士は HSP の生みの親でもあるハンセン博士と、
HSPiP ( Hansen Solubility Parameters in Practice ) というソフトをHTML5ベースで開発され、
今でもソフトの修正、統合などを進めているようです。

 

上記ソフトのきっかけは以下のURLにも書いてあります。

https://www.pirika.com/JP/HSP/Team.html


そしてこのソフトは以下のところから購入も可能のようです。

https://www.hansen-solubility.com/


上記ソフトは1095ドルからとのことで、
内容と技術的価値を考えれば激安とみるべきでしょう。


購入に際しての注意点は山本博士の以下のページに色々書かれていますので、
ご興味ある方はご覧いただくといいかもしれません。

http://pirika.com/JP/HSP/VerInfo.html

 

私個人的にはHSPは知らなかったため非常に興味を持ったことと、
何よりHSPの理論が分散、極性、水素結合という極めてシンプルな軸にまとめられ、
それを三次元空間で表現できる視覚性が素晴らしいと感じました。


常々言っていますが優れている理論はシンプルです。


HSPはそのような考え方を十二分に承知の上作られたものであると感じます。


このようなHSPをベースとした検証は該セミナーを主催した東レリサーチセンターでも相談に乗ってくれるとのことでした。

因みに私はこのセミナーを聴いた後の質問で、


「高分子に対してHSPを適用する場合、分子量によってその値が変化すると考えるが、それに対するある程度の知見(例えば、分子量が大きくなると分散成分が小さくなる等の傾向等)はあるか」


と発現したところ、やはりここは対象とするものによってデータを蓄積する必要があるとのことでした。

 

もう一つの質問としては、


「接着に限らないが、実際の反応を起こす環境、例えば温度や圧力によってもHSP値は変化するのではないか」


とうかがったところ、それに対してもそれぞれ検証が必要だ、とのことでした。

ソフトウェアにデータを入れればすぐにわかる、という単純な話ではなく、
結局のところ俯瞰的に全体を見たうえで、アナログの試験データも踏まえての検証が必要である、
ということです。


検証の余地が大きいのがまた好印象ですね。ソクラテスではありませんが「無知の知」を感じました。

いずれにしてもHSPのように化学の原理原則をベースに大まかな方向性をシンプルに考える、
ということは産業界でも全く同じことです。


細かすぎず、しかし、大まかに前進することも忘れずに。


そのようなバランス感覚は重要といえます。

 

産業界における接着について

さて今回のセミナーに限らずですが、
接着ということについて実際の産業界の概況を述べてみたいと思います。


結論から言うと、


「非常に細かいか、非常に大雑把かの二極化が進んでいる」


というのが私の考えです。


まずは非常に細かいというケースから述べてみます。


上記のセミナーの後にあったポスターセッションでのやり取りもきいていましたが、
材料、素材メーカーの研究者技術者や、
より川下のメーカー材料担当の技術者、研究者の方々のやり取りは非常に細かい。

それらが大切なのはわかるのですが、大学の研究は別として、
産業界で細かいことを突き詰めすぎては前に進めません。


そして何より、そのようなやり取りには


「全体を見渡す俯瞰的視点が大きく欠けている」


というものが多いと感じます。

例えば材料、素材メーカーのやり取りの中に、
ユーザーの視点が含まれていることは皆無に近い。

中には「コストが…」という話もありましたが、
コストという話は経営者層のビジネスの本質の議論では優先順位が低いのです。

値段が高くても、顧客のニーズにこたえるコンセプトが発信できれば、
それ相応の値段をつけるという考えの方が経営者のビジネス戦略では重要です。


私が材料や素材のユーザー側の経営者であればコストよりも、


「その材料の供給安定性はどのように担保できているのか」


ときくでしょう。


どれだけいいものでも、供給がストップすれば産業界では全く価値がありません。

細かすぎるところやわかりやすいところでの議論を続けていては、
世界はおろか日本でも勝てません。


企業に雇われている会社員という立場は理解できますが、
できる限り多くの社員が経営者レベルの視点で日々の仕事を進めないと、
どれだけ大きな企業でも足元をすくわれかねません。


恐らく企業規模の大小関わらず、多くの経営者は同じ気持ちではないでしょうか。

 


そして上記のような話の一方で、


「化学的本質を全く考慮しないで感覚論で仕事を進める」


という企業も多くあります。


こちらは上記の細かい話とは真逆で、例えば今回のような接着をテーマに例を述べると、


– 表面処理は行ったが表面観察を一切行っていない
(表面形態を確認せずに、どのようにして表面処理によって起こった事象を把握するのでしょうか)

– 材料自身の持つ不可避のばらつきを考慮していない

– 接着の工程に関するパラメータ管理とその記録を行っていない

– 材料の大まかな組成を理解し、硬化や接着がきちんと行われているかといった分析技術観点からの確認を一切行っていない


といった感じです。


私から見ると片手落ちどころか両手が落ちているようにしか思えません。


設計を主体にやってきた方の多くは材料に関する知見が少ない方が多く、
しかもそのこと自体に気が付いていない場合が非常に多い。


このような状態のまま進んでしまい実際市場問題につながっているケースもあります。


材料や素材については、やはりそこのメーカーの担当者と議論を重ねる、
または外部の専門家の助言を仰ぐといった高い視点が必要です。

当然ながらそのような議論をするためには、
当人にも最低限の化学的な知見が必要であることは言うまでもありません。

 


いかがでしたでしょうか。

今回は接着ということを主軸に述べてきました。

接着とFRPは切っても切れない関係です。


FRPそのものが繊維と樹脂の接着の関係でできており、
またFRPがFRPのみですべての要素を担えるわけでもなく、
インターフェースを中心に金属を使うということも必要になります。


FRPを扱う技術者、研究者は接着に関する知見や経験は必須といえます。


接着などについては以下のページで過去に述べたこともありますのでご興味ある記事があればご一読いただければと思います。

ポリマーの グラフト化 によるぬれ性制御
 

粘着、接着における高分子の 界面 について
 

L&L Products の BMW7向け フィルム接着剤
 

今回の記事も参考に、今後の事業展開、専門性拡大等の個人や組織の展開計画をご検討いただければと思います。


 

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