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Invar とFRPを組み合わせた試作型

2018-02-02

線膨張係数が極めて小さい合金として知られる Invar (インバー)。
高い成形精度が求められる航空業界で使われる型材料の一つです。

航空機の製造工程を専門に事業を展開する ASCENT AEROSPACE から、
Invar とFRPを組み合わせたハイブリットの型材料が発表されました。


Hybrid InVar and Composite mold という言葉の頭文字をとって HyVarC(c) と呼ばれています。

プレスリリースは以下のページから見ることができます。

https://ascentaerospace.com/innovative-hybrid-invar-composite-molds-reduce-weight-and-lead-time/#

 

今日はこの記事を参考に本リリース内容の利点と課題について考えてみたいと思います。

 

Invar とは

36%のニッケルを含有し、線膨張係数が最小値を示す金属です。

参考までに理科年表(平成29年)に掲載されている代表的な金属の線膨張係数を見てみたいと思います。
尚、ニッケル鋼(64Fe,36Ni)が Invar です。

線膨張係数(α/10-6K-1)の値抜粋

             100K    293K    500K    800K
    
アルミニウム   24.5    30.2    32.8

金                  14.2    18.9    20.6    23.7

鉄                   5.6     11.8    14.4    16.2

銅                  10.3    16.5    18.3    20.3

マグネシウム   14.6    24.8    29.1    35.4

ニッケル          6.6    13.4    15.3    16.8

ニッケル鋼       1.4    0.13      5.1    17.1
(64Fe,36Ni)

※出展:理科年表 国立天文台編(平成29年):丸善

ざっとご覧いただくと、Invarの線膨張係数の低さが際立っているのがわかります。

特に室温付近(293K)の線膨張係数はほぼゼロに近く、
他の金属と比べて100分の1以下です。

この線膨張の低さが最大の特徴であり、
それ故、高精度の金型材料にも使われているのです。


その一方で注意が必要な点があります。


それが高温での線膨張係数です。
上記 Invar(ニッケル鋼)の線膨張係数を見てみると500Kでは293Kと比較し、
40倍程度値が大きくなっています。

つまり、

高温領域では必ずしも寸法安定性は保証できない

ということになります。


実際にInvarのキュリー温度(強磁性が失われる温度)は280℃と低め。
130℃を超えると寸法安定性が急激に低下するということも知られています。
ニッケルの比率を高めることでキュリー温度を高めた合金も存在するとのことです。

また温度によって比率が変化するという特異な常磁性を持っていることにも注意が必要とのこと。
フントの規則(※)に準拠した高い磁性モーメントと高い格子パラメータの構造、
もう一方が低い磁性モーメントと低い格子パラメータを持っているため、
可変磁場に触れると合金寸法変動を誘発してしまいます。

そのため、磁場に触れさせることは避けなくてはいけないとのことです。

※フントの規則
原子の電子が軌道を埋め尽くしている閉殻ではなく、開殻の状態にあるとき、
エネルギー状態を最小化する合成スピンと合成軌道運動量を定める経験則のことです。


Invarについてもっと知りたい方は例えばこちらのページをご覧になるといいかもしれません。

 

InvarとFRPのハイブリットの利点

ASCENT AEROSPACE のプレスリリースによるとこのハイブリット型のメリットは以下の点だと述べられています。


– 20% shorter lead-time
薄肉型のため、作製期間が短い。


– 50% lighter than an all-Invar mold
薄いため型が軽い。
また型体積が小さいため加熱サイクルに対して温度追従性が高い。


– Superior leak performance and dimensional precision
シーリングは金属であるInvar面で行うため、漏れずに減圧しやすい。


– Easily reconfigurable surface
表層のFRPは焼き切って除去した後、再度の積層と表面加工が可能。

 

表層のみをFRPにしたことで、表層部の再加工を可能にし、
また型の剛性を高めることで薄肉化にも成功したというのが大まかなポイントでしょうか。

上記で書かれていることは大型、かつ形状変更が多い試作系で特にメリットが大きく、
あるようでなかった面白いコンセプトといえます。

思い切ったことを実際にやってしまうのは、
製造業でいうと海外が強いですね。


尚、個人的には資本金が必要な製造業以外では日本も挑戦的な文化があると思っています。
(例えば情報技術やサービスといった多額の立ち上げ資金がなくともビジネスを進められる事業では、若い方が挑戦できる土壌があるため)

 

今回の発表における課題

ASCENT AEROSPACE のリリースから何を考えるべきでしょうか。

上述の通り、コンセプトそのものは興味深く、
狙いとしても明確です。


さらにFRPを型材の一部に適用するというロジックは、
今後のFRPの産業展開を考える際のヒントになるかもしれません。


その一方で課題としては、

Invarの低線膨張は高温領域では発揮されない

ということ。


ASCENT AEROSPACE のリリースでは、型表層のFRPを交換する際に、

「焼き切る( burning off )」

という文言を使っています。


程度の差はあれ高温にさらされるとInvarの最大の特徴である「低線膨張」が維持できなくなる恐れがあります。

ここは要注意です。


また、上記リリース記事に掲載されている型の写真を見ていただけるとわかるかもしれませんが、
確かに型の厚みは薄くなっていますがその形状を維持するために溶接でリブが立てられています。

薄い材料に溶接などで別形状を付与するとそれによるひずみが生じることが知られており、
特に大型の場合、無視できないひずみが生じてしまう可能性があります。

これではせっかく高精度の型を作ったとしてもその形状そのものが狙い形状から外れるという本末転倒の事態になりかねません。


また今回は型といってもあくまで大型のスキン形状のものをレイアップしてバックした後、
オートクレーブやオーブンで加熱、成形するというもの。

一般的に量産に向いているプレス金型ではありません。

よって今回の型の技術が適用できる成形工程には制限があるということも一つの課題といえます。

 

 

いかがでしたでしょうか。


InvarとFRPのハイブリットという新たなコンセプト型をご紹介しました。

製品の最終成形に肝となるのは何といっても型技術。


この型技術の中で最重要なのが、

– 型をどのような形態にするのか(特に型割をどうするのか)

– 最終仕上げをどのように進めていくのか

の2点といえます。


日本は特に高い型設計(特に金型)加工技術を有する企業が多く、
この辺りのノウハウはFRP業界にとっても重要なものとなっていくに違いありません。

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