モータとターボプロップのハイブリッド航空機Evio810とFRP製プロペラの製造法
電動モータとエンジンのハイブリッドは日本の自動車メーカが得意とする優れた技術ですが、
航空機でも同様の動きが出てきたようです。
今回は電動モータとターボプロップエンジンのハイブリッドで飛行するEvio810という航空機の概要と、
FRPを用いたターボプロップエンジンのプロペラ製造法についてご紹介します。
Evio810とは
2029年に初飛行が予定されている、
動力が電動モータとターボプロップエンジンのハイブリット航空機です。
概要については以下の動画があります。
2030年代初頭に市場投入させることを目指しています。
すでに450機を受注済みであることから、
市場の関心は高いようです。
席数は主に50から100席程度でいわゆるRegional Jetです。
最大離陸重量(MTOW:Maximum Takeoff Weight)は39000kg、巡行距離は900kmとのこと。
動画によるとRegional Jetは市場の縮小の影響もあってここ5年で2650機が退役し、
しかし新たに投入された機体の数は750機にとどまっているようです。
市場全体でいえば500マイル以下の航空フライトが全体の47%にわたる一方で、
収益性でいうとやや難がある業界のようです。
そのため、メンテナンスインターバルを伸ばすことで収益性を上げるというコンセプトは必須のようです。
搭載するのはPratt&WhitneyのターボプロップPT6E
搭載するエンジンはターボプロップPT6Eとのことです。
ターボプロップは一般的なプロペラエンジンとしてのイメージの強い、
レシプロエンジンとは別物です。
Evio810に搭載するエンジンそのものかはわかりませんが、
同シリーズのPT6E-66XT Engineについてはページが存在します。
ターボプロップはターボファンと類似構造だがプロペラで主たる推力を得ている
ターボプロップというのは、旅客機で主に用いられるターボファンと異なり、
プロペラがエンジン先端部でむき出しになっているエンジンです。
どちらのエンジンも基本構造はほぼ同じなのですが、
ファンケースに円周方向を囲まれたファンと容易に目視できるプロペラではだいぶイメージが違うかと思います。
ターボプロップはエンジン後部のホットセクションから出てくる排気による推力が全体の10%程度と抑えられており、
推力のほぼすべてをプロペラから得ることもこのような外観の違いと無関係ではありません。
ターボプロップはターボファンよりもより低速で効率が高く、
また離陸までの距離も短くていい等、
Regional Jetに求められる特性を有しています。
機械学習や電子制御を盛り込み効率や性能を高めている
PT6Eに関する動画によると例えばIntegrated Electronic Propeller & Engine Control System、
Input 100+ smart dataといった言葉も述べられており、
電子制御や機械学習などを積極的に取り入れているものと考えられます。
細かいセッティングは制御頭脳の中枢であるFADECで自動で行われる、
といった内容も以下の動画で触れられています。
無駄のない自動飛行実現にも力を入れており、
もし同じようなコンセプトがEvio810にも適用されるのであれば、
電動化との相性は良いのではないかと想像します。
Regional Jetで肝となる長寿命化技術
最も重要なのはエンジン後部のタービンブレードの長寿命化のようです。
タービンの材料に単結晶材を用いているというのはその一例です。
単結晶とは結晶粒界を持たない材料でクリープをはじめとした高い耐久性を発揮しますが、
鋳造時の温度管理などが極めて難しい等、高い技術が求められます。
Pratt & Whitneyはこれに関して以下のような技術資料も公開しており、
3ページ目に単結晶のタービンブレードが外観から異なるといった画像も示しています。
Single Crystal Turbine Blade / Pratt & Whitney
資料中ではHowmet Japanが関係していることも示されています。
これに加えてタービンの冷却機構の最適化も行うことで、
主として壊れやすいタービンの長寿命化に貢献しているものと考えます。
T6E-66XTエンジンはオーバーホール間の飛行時間を、
従来から43%延長させて5000時間に到達したというのも、
このような取り組みの結果であると考えます。
前述のRejonal Jetの課題である保守点検費用の削減は、
例えばこのような形で取り組みが行われています。
以下では、ターボプロップエンジンでFRPが良く使われるプロペラについて、
その製造方法を中心にご紹介したいと思います。
ここでご紹介するプロペラはPT6Eのものではないことをご了承ください。
ターボプロップのFRP製プロペラ
参考にしたのは以下のDUC Propellersの動画です。
メディアの取材動画ですが、工場内も比較的丁寧に見せてくれています。
FRP製プロペラの製造工程概要
FRP製プロペラ製造について、動画内容のポイントを述べます。
動画中ではプロペラを根元で固定するHUBについても触れられており、
こちらもFRP製のようです。
動画の後半ではこのHubの保護材かつ空力部品として取り付けるスピナーと呼ばれる部品も、
主たる構造材はFRPであることが触れられています。
使用されているのはプリプレグ
FRPの材料として用いられているのは、
強化繊維に樹脂を予め含浸させたプリプレグです。
シート状のプリプレグを裁断機でカットパターンに裁断している様子が映っています。
成型手法が後述するプレスであることを踏まえると、
マトリックス樹脂は熱硬化と考えて間違いありません。
用途と材料の色を見ると、強化繊維は炭素繊維でしょう。
成型はプレス
成型に用いているのはプレスです。
プロペラの形をした金型が搭載されたプレス機が複数映っています。
よく見ると垂直方向と別に水平方向にシリンダーが見えます。
一軸ではなく、二軸成型であることが分かります。
動画後半でプレス機についても質問がされていますが、
プレス荷重には油圧や水圧を動力として使っており、
詳細については開示できないという担当者の発言が認められます。
また、4mというスパンの長いプロペラの成型を行えるプレス機も画像中で紹介されています。
このプロペラはVTOL向けとのことです。
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リーディングエッジの金属プロテクターは同時成形
これは少し興味を惹かれましたが、
プロペラ先端付近に装着されたインコネル製のプロテクターは、
金型内で同時成形しているとのことです。
金属端部とFRP間に高さの差が出ないため空力的にメリットがあります。
発泡剤をコア材として用いている
これは後半のインタビューで出てきていますが、
表層はCFRP、コアは発泡材(フォームコア)であるとのことです。
強い圧力でスキンのCFRPとプロテクターを押し付けているため、
きちんと一体化しているということも強調されています。
コア材の詳細については触れられていません。
ポストキュアを行っている
金型内で樹脂の硬化をすべて終わらせず、
脱型した部品をオーブンなどでポストキュア(追加での硬化反応を進行させること)するのはよくある話です。
動画中でもポストキュアは型から出して行う、
という情報が述べられています。
トリム加工は集塵機が装着された部屋で行う
画像を見る限り手作業のようです。
FRPは複雑形状も多く、結果的には機械化よりも人の手で行った方が確実である、
ということが背景にあると考えます。
プロペラの取り付け時のピッチや角度確認・調整は水平器を用いた手作業
これも航空機業界らしく、手作業が主流です。
プロペラ先端から25cm程度の位置に水平器を固定し、
水平(気泡位置が中心に来る位置)になるときの角度を見ることでプロペラの取り付け角度を確認しています。
ターボプロップ向けプロペラの追加情報
FRPとは直接関係ありませんが、
動画の後半で紹介されているターボプロップ向けのプロペラ関する内容について、
抜粋してご紹介します。
形状は顧客要求によって様々
エンジン設計等、プロペラが装着される母体となる部分の仕様に応じ、
プロペラの形状は異なるとのこと。
形状のカスタムが得意なFRP向けとも言えます。
形状の違いは飛行性能に応じて変化
トップスピードだけでなく、離陸、巡航、着陸という一連のフライトプランに対し、
最適な性能を実現するため、前出のプロペラ形状設計が行われるようです。
動画中ではスウェプトファンのような形状のプロペラも映っています。
コード長(短手方向の長さ)についても触れられており、
長いほうが推力が大きく例えば離陸距離を短くでき、
逆に短いと高速巡航が可能になるといった空力の基本が述べられています。
可変機構が付いている場合にプロペラの角度を速度によって変えるのは、
上記の特性が念頭にあります。
プロペラの枚数
これは興味深い話でした。
一例としてプロペラの枚数が2枚と3枚の場合について動画で述べられています。
3枚は滑らかな飛行に向いている一方で、
純粋にスピードだけを求めるのであれば2枚が向いている、
といった話が述べられています。
それ以外にもエンジンの要求性能によっては、
プロペラ枚数が4枚、5枚といったことを提案することもあるとの発言もあります。
今回の内容を踏まえ、技術的なポイントを述べたいと思います。
一体成型は大変難しい
DUC Propellersでは、プロペラの成型と金属プロテクターを一体成型したと述べられていました。
さらっと述べられていますが、
私の経験だと一体成型は非常に難しいです。
一番の難しさは金属プロテクターを所定位置で固定することです。
金型中のプリプレグは高温にさらされるとマトリックス樹脂は水あめ以下のサラサラな状態になり、
言ってしまえば流動状態です。
この状態で成形温度域では常に固体であり続ける金属の位置を維持することは非常に難しく、
移動してしまう可能性が高いといえるでしょう。
プロテクターが移動してしまっては、
プロペラの空力性能で最も重要なリーディングエッジのプロファイルが変化することになります。
しかも今回の例でいえばプロテクターはスパン方向上部につけられており、
最も流速が早いところです。
ここのプロファイルが変わったという事実を聴いた空力屋さんが、
苦々しい顔をするのが目に浮かぶくらいわかりやすい問題です。
しかし画像を見る限りきれいに位置取りできているように見えます。
実物を見ないと何とも言えませんが、
少なくとも動画で見る限りは非常にいい出来です。
加えて金属FRP間の接着に関して何も述べられていないのが気になっています。
しかも表面活性の高いチタンではなくインコネルですので、
金属の表面処理次第だとは思いますが、イメージ的にははがれるリスクもありそうです。
ここも様々な工夫がされている可能性はあるでしょう。
非破壊検査に関する情報が皆無
これはあえて見せなかったのか、実はできていないのかわかっていません。
普通に考えれば何かしらの形で非破壊検査を行っているはずです。
航空機向けの部品、しかもプロペラの様な一次構造材で非破壊検査工程を含まずに、
エンジンはおろか、そもそも部品としての型式証明を取得できるとは思えません。
そして前出の金属プロテクターや発泡材といったCFRPとは異なる材料を組み合わせた、
複数材料の構造部品であるため非破壊検査は非常に難しいでしょう。
さらにはHubと固定するジョイント部には別の異種材が使われており、
ここには非常に強い力がかかります。
このような接合部を非破壊検査で品質を担保することは不可避なはずで、
DUC Propellersがどのように取り組んでいるのか興味があります。
最後に
今回はモータ/エンジンのハイブリット動力機構を採用するEvio810の概要と、
当該機体に搭載予定のターボプロップエンジンの部品に関連し、
FRPを使う場合のプロペラ製造方法を中心にご紹介しました。
プロペラの様な一次構造材の作り方は公開されることが少なく、
今回の取材動画は興味深く見させてもらいました。
同時にRegional Jetには運用コスト抑制の圧力が強く、
そこでは部品の長寿命化によるオーバーホール等の点検間隔延長が一つの重要なアプローチであることも、
今回ご理解いただけたのかもしれません。
日本はそれほど国土が広くないうえ、
鉄道が張り巡らされていることからもRegional Jetの必要性はあまり体感できないかもしれませんが、
世界的に見ればそちらの方が主流です。
日本でも離島に飛ぶような航空機はターボプロップであることも多いです。
そのような機体を見かけた際は短い滑走路でも離着陸ができるというメリットと、
今回ご紹介した内容をふと思い出すきっかけにしていただければと思います。



