レーザ加工に関する近年の技術とFRPへの応用
今回はレーザ加工に関する近年の技術とFRPへの応用について述べてみたいと思います。
レーザ加工の概要

最初にレーザ加工の概要について触れます。
参考にしたのは以下のものです。
※参考情報
渡辺 俊哉 他, 高出力・高品質レーザーによる加工技術, 応用物理学会, 2022, 91, 11. p.p.659
レーザは照射するエネルギー密度によって機能と用途が異なる
レーザ照射によって生じる現象は単純な加熱から、溶融、
最終的には気化や昇華といった現象まで、
それ自体の照射密度によって大きく異なります。
これに応じ、はんだ付けや加熱溶接から、
穴あけ、アブレーション、そして高精度加工といったように、
その用途も変化していくのが興味深いところです。
そしてこの柔軟性は議論を呼びそうな用途にも使えます。
最近イスラエルに設置されたのは Iron Beam というレーザ迎撃システムです。
後述する超短波レーザのような吸収効率とエネルギー密度が高いレーザを用いれば、
防衛、その延長として兵器にもなりえるというのは恐ろしいことです。
以下のようなサイトはこれを紹介する一例です。
レーザ発信器について
主には発信媒体で区別されるようです。
この媒体が気体、または固体のものが主力であり、
アルゴン、CO2等は前者、YAGや半導体は後者とのこと。
固体レーザの一種であるファイバーレーザは、
コア部にエルビウムやイッテルビウムなどドーピングしたファイバを使い、
レーザを増幅させる機構となっています。
ドーピングさせる希土類元素によって波長選択ができる等、
様々な特徴があるようです。
※参考情報
ファイバーレーザーとは/KLV大学レーザーコース(ケイエルブイ株式会社)
近年のレーザ加工の技術動向
ここで、レーザ加工の技術動向について触れてみます。
参考にしたのは以下のものです。
※参考情報
杉岡 幸次, 先端レーザー加工技術と機能デバイス作製, 応用物理, 2026, 95, 2, p.p.78
レーザ加工のメリット
レーザの指向性と集光性によって、微小径範囲に集光させることで、
非加熱範囲の最小化と高精度加工ができることが強みとのことです。
本点は後述する通りFRPにも適用できる考えかと思います。
加工に用いられるのはパルスレーザ
レーザの発信形態として連続発振(CW/Continuous Wave発振)とパルス発振がありますが、
加工で用いられるのはパルス発振のレーザです。
微小な加工については連続的にレーザーを照射するより、
パルスの方がきめ細かい加工位置の選定ができることが、
その背景にあるものと推測します。
レーザ加工技術で注目される超短パルスレーザ
ここまで述べてきた通り、加工に向いているのはエネルギー密度の高い短波長タイプのレーザです。
今関連業界で注目されるのが、超短パルスレーザです。
超短パルスレーザはピコ秒レーザ(ピコ:10-12、1兆分の1)やフェムト秒レーザ(フェムト:10-15、1000兆分の1)とも呼ばれます。
このようなレーザはパルス幅が非常に狭いため加工部周辺に対する熱の影響が小さい、
といったメリットがあるようです。
さらに多光子吸収という現象により、透明な材料にレーザを吸収させる、
すなわちレーザ加工が可能になるとのこと。
多光子吸収とは原子などが2個以上の光子を同時に吸収する遷移のこと(参照元:理科学辞典 第五版 岩波書店)であり、
この現象が連続的に起こることで複数の波長の光で励起され、
当該遷移が非線形挙動を示すようです。
超短パルスレーザを用いた3D加工は既に始まっている
前出の通り透明なガラスにも加工ができることは、
様々な応用の足掛かりとなりえます。
超短パルスレーザ支援エッチング(Ultrafast Laser Assisted Etching:ULAE)と呼ばれる技術は、
ガラスに超短パルスレーザを3D形状で焦点とそこに供給するエネルギー値を最適化することで、
焦光点でのみ多光子吸収を生じさせ、
当該箇所を選択的に改質させることができるとの記述があります。
改質された箇所はフッ酸に対するエッチング速度が、
そうでない領域と比較して50倍に到達するという特性を活かし、
任意の3D形状を有する空洞を最小100nm程度のサイズでガラス内に構築することが可能となります。
応用例の一つがマイクロ粒体構造です。
ミドリムシの鞭毛(べんもう)高速運動観察や、
野菜の苗木成長を促進する藍藻の土壌中での滑走運動メカニズム解明が、
マイクロ粒体構造の応用例として紹介されています。
ULAEを用いればガラスに微細貫通孔を形成させることも可能です。
これはコロナり患有無の検査として有名になった、
標的DNAの選択的増幅技術のPCR(Polymerase Chain Reaction)に用いられるとのこと。
新しいPCR技術はデジタルPCRとも呼ばれ、
ULAEによって開けた各微細孔に最大で1個の標的DNAが入るようにしたうえで増幅させ、
各微細孔の増幅シグナル(例:蛍光反応等)を捉えます。
これにより検査精度が上がると同時に、
シグナルのある微細孔数を数えることから定量的な評価が可能になるのが強みとのことです。
既存のPCRとデジタルPCRの違いについては、
例えば以下のようなサイトで概要を読むことができます。
※参考情報
デジタルPCR装置とは?原理やメリット・用途を分かりやすく解説(アズサイエンス株式会社)
次にレーザ加工のFRPへの応用について現状を見ていきます。
FRPに対するレーザー加工最大の課題は加工端部に発生する熱
レーザ加工は高速加工が可能である上、
焦点を制御すれば三次元加工もできる優秀な技術です。
しかし現状でいうとFRP向けにはあまり浸透していません。
その理由を理解するには以下のCO2レーザを用いたFRP加工の動画を見ていただくといいかもしれません。
これはPPをマトリックスとするFRPですが、
動画を見ていただくと加工条件が最適でないと発煙しておりマトリックス樹脂の酸化分解が起こること、
さらに最適化されたという加工条件であってもレーザを入力した側と逆面の加工端部は、
樹脂が溶融して盛り上がっているのが分かると思います。
このような加工中の熱の発生が材料のダメージにつながってしまうことが、
現段階でいえばレーザ加工がFRP向けにはあまり用いられない理由の一つとなっています。
一方で薄物であれば以下のようにトリムすることには使えるという例もあることを合わせて触れておきます。
ただ、これも加工端部の詳細を見ると大なり小なり熱による損傷が見られるものと想像します。
FRPに有望なレーザの使い方は形状加工というよりも表面処理
前述の内容を踏まえると、FRPにはレーザは使えないのかという印象を受けたかもしれませんが、
そういうわけではありません。
この辺りの議論をするにあたり、以下の情報を参照したいと思います。
※参照情報
Laser Processing of Composites (Fraunhofer ILT)
この情報も念頭に、FRPへのレーザ加工摘要について考察します。
超短パルスレーザを用いてもレーザ加工による加工端部の損傷は不可避
これは私自身の意見に加え、
レーザ技術の専門である参照情報元のFraunhofer ILTも同じようですが、
昇華や解離現象を主とするレーザ加工では材料損傷は避けられないと考えられます。
マトリックス樹脂が熱硬化性であっても、熱可塑性であっても、
私が設計者であればレーザ加工は形状加工という意味では選択しないと思います。
溶融した熱可塑性マトリックス樹脂や炭化した熱硬化性マトリックス樹脂が、
積層や成形工程中に異物や成型時の材料流動に対する不確定要素になることに加え、
FRP成型体の形状によっては応力集中が起こりやすい熱劣化した加工”端部”が、
破壊起点になるリスクがあるためです。
表面処理にレーザは有望
レーザをFRP関係で用いるにあたり最も有望なのは表面処理です。
例えば前出のFraunhofer ILTによると金属とFRP接合において、
FRPのマトリックス樹脂だけが除去される条件で表面をレーザで処理すれば、
強化繊維に損傷を与えずにアンカー効果発現が期待できるとの記述があります。
ブラストやサンドペーパによる研磨だとFRPの強度と剛性の特性を支配する強化繊維も損傷を受けてしまう一方、
マトリックス樹脂だけを選択的に除去することはFRPの特性維持と接合品質向上を両立できるかもしれない、
優れた考え方であると考えます。
さらにFraunhoferではFRPと接合させる相手となる金属側もレーザで表面処理を実施し、
発泡形状の様な形にできると書かれています。
これもアンカー効果を効果的に発現できる手法の一つと考えられるでしょう。
様々な3D形状に加工できるレーザ加工の特性を活かしたアプローチです。
表面の微小加工にレーザを活用してはどうか
これは個人的な意見ですが、
FRP向けのレーザの活用法として
「表面の微小加工」
はどうかと考えています。
FRP成型物表面へのリブレット加工は一案
より具体的にはリブレット加工です。
FRP成型物の表層に微小な凹凸形状を形成させることで、
当該表面を通過する気体の乱流発生を抑え、
空力性能を高めるといったものが一案です。
この評価には層流と乱流の各状態の配分を示す指標の一つであるレイノルズ数が用いられることや、
直線だけでなくジグザグ形状といった様々なリブレット形状が提案されていることは、
以下のコラムでも述べました。
※関連コラム
このコラムでも述べましたが金型で転写させると離型が難しくなる可能性があるため、
後工程でのリブレット加工は選択肢の一つになりえます。
ただ、表層の強化繊維に損傷を与えることには違いないため、
本影響を見極める必要はあるかと思います。
表面の微小凹凸形状は外観不良発生リスク抑制にもつながる
表面に微小な凹凸をつけることは外観不良の抑制にもつながるのは盲点かもしれません。
FRPはVf(単位体積繊維含有率)が高いほど表面に樹脂不足による凹凸やピットが出やすく、
その外観不良が歩留まり低下の一因になることが多いです。
FRP成型物表面へのリブレット加工は、
表面に模様をつけるイメージになるため微小な外観不良は当該加工中に除去される可能性が高い。
FRPは材料を積み重ねてできる”積層体”であるため、
表層の微小な加工はFRP成型体という全体への機械特性、物理特性には影響が少ないであろう、
という考えが基本にあります。
私が設計者であれば空力性能が最重要の用途を除き、
FRP製品の外観に関する図面要求はあまり厳しくしないと思います。
積層体の考え方を理解していれば当然の判断とも言えます。
まとめ
レーザ加工は高速、高精度であるという強みがある一方、
加工端部の熱が避けられないという欠点もあります。
このようなFRPのレーザ加工による加工端部の熱による損傷を許容しやすいのは、
トリミングなどの面外方向へ貫通させる加工ではなく、
表面処理やリブレット加工などの面内方向への微小深さの加工だと考えます。
積層体であるFRP成型体は最外層の損傷で、
コンポーネントとしての特性が下がるとは考えにくく、
またマトリックス樹脂をターゲットとした強化繊維に影響を与えない表面処理は、
FRPの機械、物理特性をできるだけ維持しながら接合部のアンカー効果を得ようという意味で、
妥当な工程であると考えます。
レーザ加工はFRPやFRPと異種材接合部の表面処理方法として、
新たな選択肢を提供するかもしれません。



