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Mercedes-Benz GLE SUV のフロントエンドへの熱可塑性GFRP(GRRTP)の適用 Vol.125

2019-07-16

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FRPのプロが注目する「業界最新ニュース」Vol.125 2019/7/15

(隔週月曜日発行)

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<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━

・「FRP業界最新ニュース」

・お知らせ

・編集後記

 

<今週の「FRP業界最新ニュース」> ━━━━━━━━━━━━━━━━

今週のFRPのプロが注目する「業界最新ニュース」では、

「 Mercedes-Benz GLE SUV のフロントエンドへの熱可塑性GFRP(GRRTP)の適用 」

ということについて述べてみたいと思います。

電動化や自動運転などで過渡期を迎えつつある自動車業界。

その自動車業界においてFRP適用に最も積極的な企業の一社であるダイムラーが、
Mercedes-Benz GLE SUV のフロントエンドへの熱可塑性GFRP(GRRTP)を適用したとのことです。
(強化繊維は後述しますがガラス繊維です)

以下のJECのHPにもリリースが出ています。

http://www.jeccomposites.com/knowledge/international-composites-news/suv-front-end-support-made-continuous-fiber-reinforced

 

Mercedes-Benz GLE SUV の概要

まずは Mercedes-Benz GLE SUV について見ていきましょう。

https://www.mercedes-benz.co.jp/passengercars/mercedes-benz-cars/models/gle/gle-suv/explore.html

 

動画もあります。

主な仕様は以下のように書かれています。

-トランスミッション:電子制御9速A/T

– エンジン:DOHC 直列6気筒 ターボチャージャー付

– 総排気量:2,996cc

– 最高出力:270kW(367PS)

– 走行燃費 WLTCモード:10.3km/l

– 全長:4,940mm

– 全幅:2,020mm

– 全高:1,780mm

ISGというものがついているのはモーターアシストがついており、
いわゆるハイブリットですね。

これ以外にも、4輪のエアサスペンションを電子制御、
渋滞時のアクティブクルーズコントロールなど、
なかなかの重装備ですね。

この辺りは以下のようなサイトが参考になるでしょう。

https://autoc-one.jp/mercedes-benz/gle/newmodel-5002785/

 

フロントエンドという部品とFRP化の狙い

では、今回この GLE のフロントエンドとそこに適用されたFRPについて見ていきます。

フロントエンドというのは、自動車のエンジンルーム内の先端に位置する複合部品で、
ラジエターの保持、外気導入、衝撃からのエンジンルーム保護、ボンネットの開閉とロック機構、
グリルやヘッドライトの保持などが主な役割です。

自動車は前部と後部を軽くし、
下部よりも上部を軽くすることで走行性能が高まる事は知られており、
それ故、バックドアはフロントエンドよりも先に実用化がされています。

※ リサイクル 性を考慮した自動車バックドアへのFRP適用

※ プリウス PHV に採用されたCFRP製バックドア

フロントエンドをFRP化することによるメリットは、
プレスリリースの中で以下のように述べられています。

– 連続繊維のGFRTPシートとインジェクションの組み合わせ

強度が必要なところはGFRTPシート、
複雑な形状や面外にかさのある補助的部分はインジェクションで成形しているとのこと。

いわゆる、ハイブリット成形ですね。

これにより、複雑な形状の成形が可能となります。

この手の製品成形では一般的なアプローチでしょう。

– 各種部品の一体化による部品点数削減

フードハッチ(ボンネット開閉時のロック部分)、製品固定のブラケット、
補強用リブ、ボルト固定用のボスも含め、
金属等の補強は要らないとのこと。

特にフードハッチやボルト用のボスについては驚きました。

私の経験ではボルト締結部には金属のヘリサートを用いていたためです。
もしかするとそこまで力のかからない製品なのかもしれません。

フードハッチは、恐らくですが連続繊維のシートで荷重を担わせる形にすることで、
金属補強が不要となったのでしょう。

また、強化繊維がガラス繊維なので電蝕の心配もないというのはメリットです。

 

– GFRPは腐蝕しにくい

これは金属と比較した際、FRPが圧倒的に有利な機能性です。
今回の自動車に限らず建築、インフラ等にも当てはまりますが、
腐蝕が問題となっている部分にFRPを使うというのは、
妥当な製品コンセプトでしょう。

 

– 耐衝撃性

FRP設計で最重要の観点を抑えています。
ダイムラーらしい考え方です。

GFと熱可塑性樹脂を組み合わせたFRPは、
FRPの中でも特に優れた耐衝撃性を発揮します。

マトリックスに熱可塑性樹脂を用いることで、
分子の絡み合いがほどけるという分子レベルでの変形挙動が起こるため、
外部から入力された衝撃などの運動エネルギーを熱に変える効率が高まる上、
熱硬化性樹脂よりも靭性が高いことがこの機能を高めることにつながっています。

 

適用されたFRP材料

今回適用された材料は、 Tepex dynalite 104-RG600 です。

もともとはBond Laminateの製品ですね。
以下のサイトで簡単なデータシートを見ることができます。

http://bond-laminates.com/fileadmin/user_upload/MDS_104-RG600_x_-47__SSe_170707.pdf

上から順にみていきます。

強化繊維は一般的な E-ガラス。

基材構成は綾織り、
1200 texで、目付は600 g/m2。

目付的には一般的な印象です。
texも綾織りとしては普通という理解です。

マトリックス樹脂はPP(ポリプロピレン)。

Vfは47%で若干高めです。
それでも比重は1.68なのでPPの影響により低めになっています。

引張弾性率は20GPa、強度は430MPa。

一次構造材に用いられることの多いUDのCFRPと比較すると弾性率も強度もは7分の1程度ですが、
綾織りであること(引張方向に配向している繊維がUDの半分)、
ガラス繊維であることを考えれば妥当な特性です。

破断伸びが2.7%というのは想像したよりも低めかな、
と感じています。PPは場合によっては8%近くまで変形するものもあるからです。
強化繊維が多い分、変形が抑制されているものと推測します。

融点は165℃で一般的なPP、
HDF( Heat Deflection Temperature )も157℃なので普通ですね。

CoE(線膨張係数)は11から13 X 10E-6 程度です。
こちらもUDのCFRP(エポキシマトリックス)の90°方向(強化繊維と垂直方向)の5から6倍ですので、
やはりオレフィンのPP故、線膨張は若干大きめです。

記載されている材料について特筆するものはありませんが、
そもそも論として注目すべきは

「連続繊維のガラスロービングにPPを含浸させている」

ということでしょう。

正直含侵状態がどこまでかはわかりませんが、
熱可塑性樹脂を繊維に含侵させるというのは極めてハードルが高い。

既に重合の終わっている高分子を熱をかけて溶融させても、
粘度が高め出ることを想像すればそのハードルはイメージできると思います。

それ故、実際のユーザーからは、品質が安定しないという問題もきいています。
(伝聞なのであくまで参考の情報です)

それでも、熱可塑性樹脂と連続繊維を組み合わせたものを、
製品として売り出していることは素晴らしいと思います。
(少なくとも製品の説明に Consolidated とうたっている以上、含侵しているはずです)

 

これからの材料メーカーに求められるドレープシミュレーション

さらには材料を供給するLanxessが、材料のカットパターンか金型形状を決めるのに重要な

「ドレープシミュレーションを行っている」

ということも見逃してはいけません。
材料メーカーも正確に使ってもらうためには、
設計に近い仕事ができなくてはいけない時代なのです。

量産製品でいよいよドレープシミュレーションの適用が始まったようです。

ドレープシミュレーションは一般的な応力解析のような、
線形を中心とした弾性解析とことなり、
非線形解析となるため、複雑な材料変形挙動をS-S線図として入力しなくてはいけません。

これは金属ではコールドプレスの一部を除きあまり一般的な考えではないため、
戸惑う方も多いようです。

ドレープシミュレーションについては、機関紙での記事や連載で書いており、
また講演(セミナー)で話をしていますが、
業界での幅広い理解にはもう少し時間が必要かもしれません。

過去には以下のようなところで述べたこともありますので、
ご興味ある方はそちらもご覧ください。

※ FRTPの変形を予想するシミュレーションソフト Aniform

 

今回のアプローチについて理解すべき背景

最後に今回のリリースの背景にあるものを述べてみたいと思います。

これは部分的に述べられていますが、

「電動化をにらんだ構造設計の見直し」

がその背景にあると考えています。

軽量化はもちろんですが、
部品点数の削減による部品管理の簡略化や管理費のコストダウン、
モーターと電池を主体とした一次構造部材の設計の最適化、
さらにはFRPとセンシングを組み合わせたインテグレート設計技術など、
今までエンジンに注いでいたそのリソースを、
制御やバッテリー、モーター、そして新規構造設計に振り分けることで、
新たな時代に備えようとしているのがダイムラーの本音でしょう。

既にダイムラーは2036年までに電動化を中心とした新たなモビリティーを提案すると表明しています。

その際、FRPに求められるのは軽量化だけではなく、
今までの自動車と異なる乗り物が現れた時、
どこに、そしてどのように使用することでその存在感を発揮できるのか、
という検証をすることが全世界で求められています。

これは自動車に限らず、より幅広い産業界での流れであり要望といえるでしょう。

これらの流れに乗り遅れないためには、
自社の強みを徹底的に鍛える一方、
柔軟に幅広い業界と連携しながら自社が対応できる範囲を広げていく、
という姿勢が重要に違いありません。

 

<お知らせ> ━━━━━━━━━━━━━━━━

今後の登壇予定のセミナーを以下の通りご紹介させていただきます。
合わせて参加をご検討ください。

– 2019年9月18日(水)10:30-16:30

会場:大田区産業プラザ(PiO)(東京・南蒲田)

CFRP部材・製品の 設計と生産に関する 品質保証の考え方とその実践方法

本セミナーは従来の対面に加え、全国にライブ配信するため、
遠方の方にも参加しやすい形態となっています。

https://johokiko.co.jp/seminar_chemical/AC190908.php

– 月刊誌「 機械設計 」連載:2019年8月号発売中

2019年7月号が発売され、第7回目の連載記事が掲載されています。
ご興味ある方は購入をご検討ください。
今回はFRP製品製作プロセスの概要紹介とポイントとなる積層工程について、
技術紹介とその比較を行っています。

※題目 FRP製品製作プロセスでは成形加工ではなく積層に着目する

http://pub.nikkan.co.jp/magazines/detail/00000881

 

<編集後記> ━━━━━━━━━━━━━━━━

そろそろ携帯電話を変更しようかと考えています。

いまだにカパッと開くガラケーですが、
バッテリーの持ちも良く、
小型で持ち運びに便利なので重宝しています。

仕事上で小型ノートPCを持ち歩く人間としては、
スマホでのインターネット接続にそれほど必要性を感じていません(今のところは)。

しかしさすがに携帯電話もそれなりにお歳なので、
急に電源OFFになってしまうことも。
流石にスマホに変えなくてはいけないのか、と感じつつあります。
(並行して常にガラホが候補にいますが…..。)

そんな中、スマホのプランを見てみましたが、
最近の料金体系は本当に複雑になっていますね。

しかしその一方で国の干渉もあり、プランがシンプル化する動きも先月辺りから出ている模様。

これを見ると、格安SIMであれば今の携帯電話のプランとあまり変わらないことがわかりました。
(あくまでシミュレーション上ですが….)

今はひたすら大手キャリアのポイントを消化すべく、
通信料の支払いに継続して充填中し、
スマホへ乗り換えた時のポイント残りが無いよう精を出しています。

 

・ 著書/連載情報━━━━━━━━━━━━━━━━

月刊「機械設計」(日刊工業新聞社)「これからの設計に必須のFRP活用の基礎知識」連載中
http://pub.nikkan.co.jp/magazine_series/detail/0001

『CFRP製品設計の前提知識 ?CFRP業界の特殊性を踏まえた重要ポイント?』
http://www.johokiko.co.jp/ebook/BC170601.php

『CFRP ?製品応用・実用化に向けた技術と実際?』(共著)
http://www.johokiko.co.jp/publishing/BC160301.php

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