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ポリマーの グラフト化 によるぬれ性制御

2018-05-17

今日のコラムでは ポリマーの グラフト化 によるぬれ性制御 という題目について書いてみたいと思います。

 

FRPにおける接着とぬれ性

FRPが高強度、高剛性の特性を発現するには、
繊維と樹脂の界面を介した荷重伝達が行われることが重要です。


過去のコラムでも「プッシュアウト法による界面接着評価」、
熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂の接着に関する学術評価」、
プライマーレスのメタクリレート系接着剤」、
といった接着に関連する記事を書きました。

 

そして接着というのは上記の繊維とマトリックス樹脂の接着というだけでなく、
FRPと金属の接着というものも重要なテーマとなります。

FRPが製品の中に組み込まれる際のインターフェースとして金属部品との接合が必要になることが多い、
というのが背景にあります。

特に金属との接着の場合にその接合の信頼性を高めるのに重要なのは、
接着界面の表面積とぬれ性です。


表面積というのはいわゆるアンカー効果を狙った接合品質の向上です。


それに対してぬれ性というのは、
接合の主役である接着剤と被接着体がどれだけ仲がいいか、
を示すイメージになります。

ぬれ性は接触角で評価することが多いです。
接触角のイメージは以下のような図が理解しやすいと思います。


( The image above is referred from https://www.biolinscientific.com/measurements/contact-angle )


上記の図を見ていただければわかるように接触角が小さい方がぬれ性がいい、
つまり接着剤と被接着体の仲がいいということがわかります。

当然ぬれ性がいいということは細かい凹凸があったとしても仲間で入り込める可能性が高まり、
接着面積が大きくなり、その分接着の品質が向上するということもイメージできるかと思います。


過去には「ぬれ性を高めるプライマー」という記事も書いたことがありますので合わせてご覧ください。


そして接着に重要なぬれ性改善ということに対し、
よりミクロな視点で取り組んでいるものの一つが今回ご紹介する ポリマー(高分子) のグラフト化です。

 

グラフトポリマー とは

グラフト化 を説明するにあたり、 グラフトポリマー というものを紹介したいと思います。


基本的には高分子の主鎖から枝のように生えた構造のものを言います。

グラフトポリマーは主鎖の有する性能とは異なる特性を発現させたいときに用いる分子設計の方法で、
主には親水性や疎水性といった特性を持たせるというのが定石です。


例えば仮に主鎖が炭化水素主体で極性が非常に小さく疎水性であったとしても、
グラフト化させた分子(側鎖)が極性分子にすることで高分子全体としては親水性を発現させることが可能となります。


イメージをしていただくための参考情報の一例としては以下のようなページがあります。

http://www.taisei-fc.co.jp/pdf/technology_20161026.pdf

 

ポリマーのグラフト化を用いた表面ぬれ性制御

2018年4月号の高分子学会誌でもでていましたが、
ポリマーの主鎖の一端を基材(例えば被接着体)に固定させることでグラフト構造、
いわゆるポリマーブラシを形成し、ぬれ性を制御しようという試みがあるようです。


産総研の佐藤知哉博士らの記事によると、
イオン性のポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホルコリン( PMPC ))を基材の上にポリマーブラシとしてグラフト化すると、基材が超親水性の表面を有するようになるようです。

その一方でフッ化アルキルの一種であるポリ(2-パーフルオロオクチエチルアクリレート( PFA-C8 )を、
同様にポリマーブラシとすると撥水性、撥油性を発現させることができるとのこと。

それだけでなく、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)( NIPAm )等の感温性ポリマーを用いれば、
温度環境によって疎水性と親水性を制御することも可能です。


上述の佐藤博士はこのポリマーブラシをメッシュフィルターにグラフト化することで、
油と水の分離行うということを発表しています。

より具体的には親水性のポリマーブラシで被覆したSUSメッシュフィルターは水は通す一方で油は通さないとのこと。
これは親水性を有するメッシュの上で形成される水膜に疎外されて油がメッシュを通れない、
というのが主なメカニズムのようです。

当然ながら撥水性のポリマーブラシでメッシュを被覆すると逆のことが起こります。


それ以外にも佐藤博士はどうしたらポリマーブラシを密にできるか、
そしてより簡易的にこのポリマーブラシで被覆する方法は無いのか、
といったことについて議論しています。


詳細については高分子学会誌をご一読いただければと思います。

参照URL:
http://main.spsj.or.jp/c5/kobunshi/kobu2018/kobu1804.html

 

ぬれ性という考えをFRPに適用するにあたり考えることとは

今回ご紹介したぬれ性という考えをFRPに対してどのように考えるべきか、
ということについて述べてみたいと思います。


結論から言うと接着に重要です。


理由は上述の通りですが、ぬれ性というものが盲点となっているケースも多いのが現実です。


そして濡れ性というとFRP側に対して考える方が多いのですが、
どちらかというとFRPと接合する「金属」に対してこの考え方を持っておくことが重要です。


接合に使う「接着材」は主に有機物で作られており、
無機材料である金属とは相いれない関係にあることが多いためです。
(一部例外もあります)


FRPの強化繊維であるガラス繊維や炭素繊維も、
まとまらせるため、そしてマトリックス樹脂との界面接着性を高めるためにサイジング剤を使っています。


このサイジング剤は上記の目的に加え、
樹脂が繊維内部まで浸透しやすいよう、
繊維の(マトリックス樹脂に対する)ぬれ性を高めるという目的もあると考えられます。

 

接着を基本とした接合技術を検討する場合、
その基本要素として「ぬれ性」も重要技術として考えることをご検討いただければと思います。
 

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