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Composite向け Nadcap AC7118 RevE のリリース

2018-04-10

今日のコラムでは複合材料向け Nadcap である AC7118 に最新版 RevEが発行、
ということについてその概要と現実について述べてみたいと思います。
はじめに断っておきますが、この話は航空機業界に限ったことではなく、FRPを扱われるすべての業界における根本を考え直すきっかけととらえていただければと考えています。

※ Nadcapは「 National Aerospace and Defense Contractors Accreditation Program 」の略です。


厳しい品質要件として知られる航空業界。
その中でも特に外見からでは判別できないものを中心とした工程、
いわゆる「特殊工程」に関する認証としてNadcapが知られています。

Performance Review Institute (PRI)という組織が管理されるこの認証について知らない方は意外にも多いです。


私も色々な企業の方と話していると、多くが好調を維持する自動車向けを検討したいと述べる一方、
FRPの適用実績のある航空機業界にも強い興味があるというケースがあります。


そういう意味ではNadcapという単語だけでなく、
概要としてどういうものか、ということを知っておく必要があると考えます。
(詳細については専門業者[例えばこちら]もありますので、そちらで相談されることをお勧めします)
http://www.tfmc.co.jp/index.html

 

そこで今日のコラムではNadcapの概要と、
私の実務上の経験を踏まえた現実の話をしてみたいと思います。

 

Nadcapの認証を行う PRI とは

PRI は何か、ということについては私が述べるまでもなく、
以下のHPに詳しく書かれています。

しかも、日本語で書かれているというところが裏を返すと日本でもNadcapに関する関心が高いということを示唆しているとみるべきでしょう。

https://jp.p-r-i.org/


英語のHPも見てみましたが、日本語と同等のことがきちんと書かれています。
そのためまずは上記のページをみればある程度分かるのではないでしょうか。


一言で述べると、PRI は1990年に設立された非営利団体で、
主に特殊工程の認証プログラム( Nadcap )を管理促進するところです。


それ以外でいうと ISO 9001、AS 9100、ISO 14001等の規格の第三者認証も行っているとのこと。
品質だけでなく、環境に関する規格の認証も対応しているということになります。


本部は米国ペンシルバニア州のピッツバーグです。

近年はグローバルな業界主導のトレーニングである「 eQuaLearn 」、
航空宇宙産業の特殊工程に従事する人材を認定するための「 eQualified 」といったものもあるようです。


eQuaLearn は

– 品質を理解するためのコース:品質の鍵となる原則を理解するためのコース
– Nadcap審査準備コース:専門的なテーマによる掘り下げたトレーニングを行うコース
– 特殊工程従事者のためのコース(過去の認定コースの新課程):特殊工程に従事する人のためのコース

(上記は https://jp.p-r-i.org/professional-development/training-2/ から抜粋)

などがあり、必要に応じた知識の底上げに適用できるとのことです。

 

一方の eQualified は、社内スタッフの認定、外部サプライチェーンの従業員の認定、内部審査員の認定、といった人の認証や認定に関するものが主のようです。

プロセスオペレーター、プロセスプランナー、プロセスオーナーのようなレベルわけもされており、
個々人の状況や能力に応じてコースが用意されているとのこと。

非破壊検査資格のLevelみたいなイメージになると思います。

 

上記の通り PRI というのはNadcapの認証だけでなく、
各種品質保証関連の規格認証やトレーニングも行っている団体というのがお分かりいただけると思います。

 

特殊工程とは何か

私が実務上理解していたのは

外観からはわからず、そのものを割るなどして中身を見ないと(分析しないと)状況が把握できない品質に影響を与えるもの

というものでした。

その一方で、きちんとした規格に基づいてその道の専門家が答えると以下のようになります。


“製造の過程で結果として生じるアウトプットが、それ以降の監視又は測定で検証が不可能で、その結果、製品が使用された後でしか不具合が顕在化しない場合には、組織は、その製造の該当するプロセスの妥当性を確認しなければならない。
 注記 このようなプロセスはしばしば、特殊工程と呼ばれる。”

JIS Q 9100、7.5.2項「製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認」の要求事項による。

(引用URL:http://www.tfmc.co.jp/tfm-rensai-nadcap-mo1.html


表現は違いますが、言いたいことは概ね同じであることはご理解いただけたと思います。

因みに特殊工程の中でいくと、認証取得という観点で複合材料はどちらかというと数が少ないわけではありませんがメジャーではありません。
これは航空機業界全体で行くとニーズと実績がそこまで高くないということの裏返しとも言えます。
(今は少し状況が変わっているかもしれません)


以下の資料のp.15をご覧ください。

http://sjac-jaqg.kir.jp/download%20data/07houkokukainadcap.pdf


少しデータは古いですが(2007年)、これを見てみると以下のような項目のNadcap取得が多いことがわかります。
右に書いた数は当時の認証取得の数です。

数の多い、いわゆるメジャーな認証項目は以下のようなものがあります。

CP ( Chemical Processing ):705

HT ( Heat Treatmenting ):661

NDT( Non Destructive Testing ):968

WLD( Welding ):418


やはり汎用性の高いNDT(非破壊検査)や化学処理、熱処理といったものは数が多いですね。
それだけ生産に関連する適用事例も多く、
必要に迫られるケースが多いといえます。


では複合材料はというと、当時で認証取得で125。


思ったよりは多いですが上記のメジャーなものと比較するとやや少なめ。

データが少し古いので、今はもう少し増えている可能性があります。

 

FRPは航空機業界における特殊工程の巣窟

極端な書き方になってしまいましたが、複合材料は特殊工程の塊といえます。

マトリックス樹脂の含侵されていないドライの基材は基本的には対象外ですが、
樹脂が含侵された後のプリプレグ(複合材料)、樹脂を含侵するための工程、
材料の裁断、積層、成形、非破壊検査なども基本的にすべて特殊工程扱いです。


これは複合材料は成形した後に、

– 材料は適切な温度/湿度管理をされていたか

– 適切な環境で裁断、積層が行われていたか

– 適切な温度と圧力条件で成形されたか

といったことが外見からはわからないことが背景にあります。

 

これらを把握するためにはDSC、IRなどのケミカルアプローチによる評価、
汎用材料試験機を用いた機械特性、物理特性評価、
並びに温湿度履歴、積層/裁断環境の管理状況といったもののバックデータが必要となります。


まさしくFRP関連の工程が上述の「特殊工程」であることがご理解いただけたと思います。

材料に関する話は材料規格に関連することであり、
以下の私の講演でも話をする内容と大きくかかわってきます。
(本講演の東京開催は4月12日ですが、7月にも同内容にて7月10日に講演を行います。

https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/1485


工程に関する部分は今回のNadcapとも近い内容で、
いわゆる工程規格( Process Spec )を中心とした話になります。

これは以下の8月の講演で話をする内容とも近い内容となります。

https://www.science-t.com/st/cont/id/28628


(上記2つの講演についてご興味ある方は参加をご検討いただければと思います)

以上の通りFRPに関連するものは、航空業界では特殊工程として扱われるということはご理解いただけたと思います。

 

複合材料関連の Nadcap AC7118とは


そしていよいよ複合材料関連のNadcapの中身を見ていきます。

複合材料関連のNadcapは 

AC7118

という番号で管理されています。


AC7118は手元にないのでよくわかりませんが、
その前身である AS7118A は手元にあります。

さぞかし中身に色々書いてあるとご期待いただいた方には大変申し訳ありませんが、
表紙を入れて6ページだけです。


AS7118Aの項目だけ抜粋すると以下のようになります。

1. SCOPE
2. REFERENCES
3. DEFINITIONS
4. QUALITY SYSTEM
5. GENERAL CUSTOMER REQUIREMENTS
6. COMPLIANCE

内容はとてもシンプルです。
航空機認証の監査側経験者の私から見ても、
至極当然のことが必要最低限の範囲できちんと書かれている印象です。


実際に私が顧問先企業で材料規格や工程規格を作るときにも参考にしています。


ただ、未経験者がこれをみても

「具体的に何をすればいいのか」

はわからないと思います。

 

FAAの航空認証規格であるFARもそうですが、
詳細はほとんど書かれていません。


実はここがミソです。


言われたことをきちっとやることを得意とする企業にとって極めて理解しがたい。


いいかえれば、規格に書いてある行間を読み取って自分なりに解釈をし、
それを系統立てて提案する、というのが航空機業界の常識。
(Tier1以下はOEMに言われたことをきちんとやることが最重要)

それ故、航空機や航空機エンジンの最終販売企業(自動車でいうとOEM)はこれらを自らの知見を活用して各項目に落とし込み、
それをTier1以下に細かく指示するのです。


そのため認証を受けるためにはそれを専門とする専門組織や企業のサポートが無いと、
かなり厳しいでしょう。

規格を読めばすぐできるというわけではないのです。


ここでものをいうのは本をいっぱい読んで知っている、
講演で色々話を聴いて知っている、
という評論家の知見ではなく、


「実際に試行錯誤しながら自ら認証を取得した、または認証を取得するための監査を行った」


という


「実践経験」


しか役に立ちません。

 

これが現実なのです。

 

そのため航空機業界はビジネス的に儲かる、儲からないという以前に、
上記のようなやや政治的な部分も含まれるということを予め覚悟しておくことが必要だといえます。

 

Nadcap AC7118 の最新版 RevE は何が変わったか


概要としては、材料の裁断とその関連項目が追加された、ということのようです。

RevEの取得第一号は Webindustries のようです。
こちらのプレスリリースも出されています。
 


これまで材料の取り扱い、保管環境、暴露環境、記録の残し方、評価方法、
といったことは書かれていましたが裁断や関連作業について特に書かれていませんでした。

ここの部分が追加されたというのが今回の変更点です。

 

RevEが誕生した背景ですが、恐らく


材料の裁断時の取り扱いについてある程度の知見がたまってきたため標準要求事項が精査できた


ということがあると考えられます。


実際の私の経験でも裁断における管理というのがその後工程への影響が大きかったのは事実です。

特に厚手の材料を取り扱おうと考えている企業は要注意です。

量産工程での裁断時に様々なノウハウが必要となります。

※ここで裁断するのはプリプレグまたはそれ相当の材料が対象の場合を想定しています。

 

Nadcapを取得した後の現実


私はFEP関連業界においてNadcapを取得した側ではなく、その取得を目指すサプライヤの監査をする側にいました。

そして当時はNadcapではなく、サプライヤ独自のサプライヤ認証取得という形でしたが、
その後、実際に量産が始まった後の現実を改めて振り返ってみたいと思います。


結論から言うと、


「認証は必要条件であって十分条件ではない」


ということです。

認証があっても量産後に問題は嫌というほどたくさん起こりました。


決して万能ではないのです。

それはある意味当たり前といえます。


製品一つ一つに対し、使用する材料も違えば、工程も成型品の形状やサイズも違う。
その工程の条件もそれぞれ違う。


上記の認証のレベルというのはその基礎となる一般論を言っているにすぎないのです。


言い換えると入り口の議論にすぎません。


ここが終わった後で本来の技術的な議論が始められるのです。

その一方でこの手の認証を取得した企業では最低限の教育をやる必要がない、
というのは大きいかもしれません。


航空機認証最大の強みは、問題が起こった時にその原因究明をするための準備に必要なことが述べられていることです。


同じものを同じように作ることはもちろん、問題が起こった時に何が問題だったのかという履歴を追うための準備に力点が置かれているのは極めて重要といえます。


その一方でこのような姿勢が分業体制を出発点とした効率化重視で薄れてきているのが近年の傾向です。


何故、設計コンセプトも固まらない時点でコストから話が始まるのか?

何故、品質を考えずに高速成形や加工の話に注意が向いてしまうのか?

何故、将来的に問題が起こったことに備え、データ取得の準備を行わないのか?

何故、品質に関することを外部メーカーに丸投げの委託をしてしまうのか?


航空機業界うんぬんではなく、そもそも論としてものづくりの基本が根底から崩れていることに気が付かない方が多いことに違和感を感じることが本当に多いです。

恐らくはFRPは実際に産業として量産化されたケースがまだ限られていて、


「量産現場最前線の経験者が少ない」


というのが問題の根底なのではないかと思います。

 

いずれにしても今回の Nadcap に関する話の概論を理解することで、
航空機業界に限らず、FRPを使用する、または使用しようとするすべての業界の方にとって、
今一度「品質とは何か」ということを考えていただく機会にしていただければ幸いです。

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