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CF/PP の ハイブリット基材 の自転車への適用

2017-07-21

先日のメールマガジン FRPのプロが注目する「業界最新ニュース」 でもお伝えしましたが、
イギリスのスポーツ自転車メーカー ORRO の TERRA C という製品に、
sigmatexの sigmaIF というCF/PPハイブリット基材が適用されたとニュースが出されました。

http://www.sigmatex.com/2017/06/orro-release-new-terra-c-bike-featuring-sigmatex-hybrid-carbon-fibre-textile/


今日はこのリリースを題材に、FRP業界における個人向け製品の市場動向、
自転車の設計とハイブリット基材に関する概論を述べ、
今後の戦略についての話を簡単に述べてみたいと思います。

 

FRP業界におけるスポーツ用品などの一般向け製品の市場

自転車を含むゴルフ、テニス、スキー、ヨットのようなスポーツ用品、
またおもちゃや遊具などの一般個人向け商品は2016年実績で62億USドルの市場であり、
2021年まで7%程度の成長率を維持しながら堅調な業界である、と予想されています。
取引材料の量は8.4億トン程度で、輸送機器、建築、電気電子、パイプ/タンクについで4番目です。
(参照元:Overview of the global composites market (JEC))

この成長率は自動車、電気電子、建築、タンク/パイプといった2桁成長が予想されている業界と比較するとやや低い印象ですが、これまでの歴史を見ても細く長く続く業界であり、今後も堅調なカテゴリーであると考えて間違いはないと思っています。


使用される材料もGF:CFで約6:4で比較的CFのシェアが高く、
また圧倒的に熱硬化性マトリックス樹脂が適用されている業界といえます。


そして注目すべきは材料のキロ単価です。

カスタムメイドの色が濃い業界ゆえに製品単価が高く、
航空機には遠く及ばないものの、自動車や電気電子、そして建築業界よりも20%程高い、
$7.4/kgの値を示しています。

地域的にいうと中国を筆頭にアジアが非常に強く、
それに次いで北米、そして欧州という順番になっています。


今後、いきなりの市場拡大は見込めないようですが、
ポテンシャルはまだ残っているとのこと。
このターゲット顧客は低価格帯に集中しているため、
製品の低価格化がどれだけ進むのかによって成否が決まるだろう、
というのが大方の予想とされています。

 

TERRA C の概要

自転車の概要については以下のURLをご覧いただくのが最もわかりやすいと思います。

https://www.orrobikes.com/news/2017-orro-terra-c-release


この自転車は典型的なスポーツタイプの自転車といえます。イメージ写真を以下に示します。

( The image above is referred from https://www.orrobikes.com/bikes/road/terra-c-5800-hydro)

FRPを使うことで軽量化と衝撃吸収性の向上を狙うことはもちろんですが、
車両のスペックも興味深いです。


上記のリリースを参考に私のわかる範囲で書いてみます。

まずボトムブラケット下がりは72mmとやや低めに設定されており、
低重心設計とすることで安定走行に重点が置かれていると考えられます。

ボトムブラケット下がりについては、以下のURLがわかりやすい解説をしてくれています。

http://www.cycle-eirin.com/blog/store/marutamachi/45965.html


またヘッド角は71°で設定。

ヘッド角が小さい方がハンドルを握った時に上半身が真っすぐに立つイメージになるため、
ハンドル操作もしやすく、ブレーキングもやりやすい。

ただその分、ハンドリングに対して応答が鈍くなるようです。

逆にヘッド角が大きくなれば前傾姿勢となり、
ハンドル操作に対する車両の応答は敏感になるとのこと。


こちらの設定もオンロードのレース車両というよりは、
やや扱いやすさと走行する道路状況に対してある程度幅広く想定していると考えられます。

ヘッド角についても以下のURLをご覧いただくとイメージがわきやすくなるかもしれません。

https://www.sports-eirin-marutamachi.com/blog/92593.html

このURLにも書かれているようにボトムブラケット下がりやヘッド角といったパラメータだけでなく、
それ以外の部品の設計やバランス、使用される材料などによる影響もあるようです。


そしてタイヤの幅は42mmとやや太め。
舗装された道路だけでなく、
ある程度の悪路であっても安定して走行できるように選択されている、
と書かれています。


以上のことから TERRA C はどちらかというとオンロード、オフロード、
どちらでも使えることを想定しているといえます。

参考までにですが、この車両は以下のURLで購入もできるようです。価格は2000ポンド以上(約30万円以上)とかなり高価です。

https://www.orrobikes.com/bikes/road/terra-c-5800-hydro

 

CF/PPのハイブリット基材 sigmaIF について


sigmaIF データシートは以下のURLにあります。

http://www.sigmatex.com/wp-content/uploads/2015/02/sigmaIF.pdf


具体的な物性値や特性値が一切書かれていません。
この辺りの情報発信のロジックは国を問わず繊維業界固有の文化と考えます。

基材の構成はCF(詳細は不明)と InnegraTM という高弾性PPを綾織でハイブリットしたものです。


InnegraTM については以下のページにもう少し詳細がかかれています。
密度はバルクで0.84、-90℃まで靭性を維持、紫外線暴露につよく、吸湿性が極めて低い(0.1%以下)、
といったことが述べられています。

http://www.innegratech.com/fibers


繊度も700から4200 dtex程度のものがあり、用途により柔軟に選べるようです。

さらに以下のページには少し物性値も載っており、弾性率は14?15GPa程度とPPとしては確かにやや高めの設定となっています。

http://docs.wixstatic.com/ugd/6effc2_5c5ff8661f4449edaabb12c4c8b5509b.pdf


TERRA C ではこの基材と熱硬化性のマトリックス樹脂を組み合わせることにより車両を製造していると考えます。

 

今回のリリースを通じて


ご紹介したプレスリリースを通じ、考えるべきことは何でしょうか。

まずはCF/PPのハイブリット基材を衝撃吸収性という強度や軽量化以外の性能にも着目しているところです。


フルCFの自転車は一度倒れたら場合によっては使えない、
というほど衝撃に対して敏感な場合があり、
強度、軽量化、剛性という特性と引き換えに脆性である、
という弱点を有する場合がほとんどです。


それに対して今回の製品はPPとCFのハイブリットにすることで、
CFが苦手とする靭性を担い、衝撃吸収の特性を高めることに加え、
多少の衝撃では壊れない耐衝撃性を付与する、という方向性の選択を行っています。


FRPというのは基本的に異方性があるためCAEなどの評価は非常に難しいのですが、
この異方性に加えFRPが繊維と樹脂を組み合わせた複合材料である、
ということは評価をさらに複雑化しています。

それに加えて今回はさらに繊維の種類も複合化しているため、
CAEの評価が極めて難しく、設計も困難であると予想されます。


ただし、明確な理由があって今回のようなハイブリット基材を適用するということなのであれば、
積極的に取り組むべき内容であると考えます。

加えて今回材料が用いられているスポーツ製品はニッチかつ少量多品種のカスタマイズ性の高い業界ですが、
その文化故、前衛的な製品のコンセプト証明をするフィールドとして適しているという考え方もできます。

大量生産ということが製造業として基本的に正義であることに疑いの余地はありませんが、
すべてに対して大量生産にいきなり到達できるわけではありません。

その場合は少量かもしれませんが、材料や設計思想、製品コンセプトが成立するのかしないのか、
そして新しい考え方を市場に提言し、それが受け入れられるのか否かについて検証するということにおいて、
スポーツ製品業界というのは検討に値するのではないかと考えることもできます。


このような検証を通じて得られた知見や実績は、
その後の事業拡大や大量生産を目指すにあたっての極めて重要な情報媒体となっていくでしょう。


常に大量生産を狙いながらも、少量多品種の業界での検証を行っていく。


このようなアプローチも事業戦略としては一考の価値があると考えられます。

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