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老朽化の進む 橋 や トンネル へのFRP適用検討

2017-07-19

7月17日の朝日新聞の朝刊に「老朽橋・トンネル 進む撤去」という見出しの記事がありました。
以下のURLでデジタル版も見ることができます。

http://www.asahi.com/articles/ASK774GNJK77PTIL00Z.html

この新聞記事によると「? 緊急措置段階 構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態」と判定されている橋やトンネルが、奈良県十津川市、茨城県古河市、兵庫県豊岡市、静岡県浜松市、愛知県豊田市などの自治体で確認された、とのこと。

しかし人口減や財政難に直面している自治体によっては予算確保の問題もあり「選択と集中」が必要である、といったことが述べられています。


この見出しを見た時にFRPの専門家としても何か役に立てることがあるのではないか、
と考え調べてみたところなかなか根深い問題が山積していることがわかってきました。

今日のコラムでは橋、トンネルの老朽化への取り組みの現状の概況と過去の検討について紹介をした後、
FRPへの適用の可能性について考えてみたいと思います。

 

インフラの老朽化に対する強い警告

これも調べていてわかったことですが、国土交通省は極めて強い表現で警告しています。

国交省の発表している「老朽化の現状・老朽化対策の課題」について一部を抜粋してみます。

  •  平成14年以降、当審議会は「今後適切な投資を行い修繕を行わなければ、近い将来大きな負担が生じる」と繰り返し警告してきた。
  •  今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切らなければ、近い将来、橋梁の崩落など人命や社会システムに関わる致命的な事態を招くであろう
  •  「荒廃す るニッポン」が始まる前に、一刻も早く本格的なメンテナンス体制を構築しなければならない。

( The information above is referred from http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/torikumi.pdf )

いずれもかなり強い表現であることがわかります。


なぜここまで強い警告をしているのでしょうか。

 

道路法の改正後も残る現場での課題

橋とトンネルのインフラの老朽化への対策に向けH25年6月に道路法が改正されています。

このような動きを加速させた契機となったのは笹子トンネルの天井落下という大惨事です。

この道路改正法により、道路の維持または修繕に関する技術的基準等、ということで

「点検は近接目視により、5年に1回の頻度で行うことを基本とすること」

ということが決まり、最初のところでも述べた診断結果を4つの分類に決めたようです。

( The information above is referred from http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/torikumi.pdf )


しかしこの取り決めとは裏腹に、実際は遠望目視が8割近くである、
またはそもそもそのような橋梁保全業務に携わる土木技術者が地方自治体には居ない、
といった根本的な課題が大きく横たわっているのが現実のようです。

この辺りの話は以下のスライドを見ていただければわかると思います。

http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/torikumi.pdf


そして国交省は「道路メンテナンス年報」を発行し、
国民や道路利用者向けに上記の取り組みの実績を公開しています。

http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobohozen.html


この中にある昨年度の道路メンテナンス年報のH27年度の概要を見てみて驚いたことがあります。

何と日本における橋梁の現状という項目で7割以上が自治体管理なのです。

http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/road_outline.pdf


これが最初に紹介した朝日新聞の記事にあった「自治体の予算不足」という単語につながってくるのです。

一例として北米が比較対象として述べられていますが自治体管理は10%強。
日本とは管理状況が大きく異なっているということは事実のようです。

 

これまでの技術的取り組み

調べてみたところいくつかありましたが、
個人的に好例と思ったものをご紹介します。

建築用先端複合材技術協会というところが発表している、

「FRP補強材を用いたコンクリート構造物のライフサイクルコストのケーススターディ」

というものです。記事の一部は以下の所で見られます。

http://acc-club.jp/pdf/06_04_02.pdf

こちらは従来の金属の補強材の代わりにFRP(CF、GF、AFなど)を使うというものです。


詳細はご覧いただくとして、ここでのポイントは


「FRPは材料単価は高いが、メンテナンスサイクルが長いためトータルコストが安くなる」


という考え方です。


これ以外にもコンクリートの靭性を上げる研究など、材料そのものの特性を上げようというものもあります。

http://www.jci-net.or.jp/j/public/kiso/pdf/no20.pdf


上記は一例にすぎませんが技術的な考え方やトータルのコンセプトの検証はある程度進んでいるというのが印象です。

 

FRPとしての切り口と課題

やはりFRPの活用に向けた切り口の一つは


「耐腐食性の高さ」


であるといえます。


FRPは樹脂がマトリックスのため耐腐食性が、という話もないわけではありませんが、
一般的な金属と比較すると耐腐食性は高いケースが非常に多いです。
(基本的には室温環境下であるという前提です)


この耐腐食性の高さを一つの指標としたときに達成できるのが、


「メンテナンスサイクルの長さ」


です。


これは建築用先端複合材技術協会でも述べられていたもので、
材料費や加工費用といった初期費用が高くとも、
メンテナンスサイクルが長くなればトータルとしてのコストパフォーマンスは上がる、
というロジックです。


日本はもちろんですが、ここ最近、海外でもこの手の話をよく耳にするようになりました。


「沿岸部の建造物や長期寿命が金属部品の代替にFRPを用いる」


というのはいまやFRP業界では常識の一部になりつつあります。

国交省も今後の取り組みの最重要課題の一つとしてこの考え方を既に把握しており、


「道路のメンテナンスサイクルの構築に向けて」


というわかりやすい提言を以下のURLで公開しています。

http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobo9_1.pdf


その一方で課題もあります。

最大の課題は

「FRPに関する長期利用に対する設計許容曲線のデータが少なく、定石が無い」

ということです。


もちろん各社各様のある特定の材料に関する知見はあるのですが、絶対的な定石ではありません。


FRPは材料そのものの有するばらつきも大きいため、バッチ間ばらつきを考慮するか否か、
疲労限度に対する考え方をどのように設定するのか、
回帰モデルはどのように設計するか、といったところもまだまだ発展途上です。


ここの考え方は設計の根幹であるため今、この瞬間も様々な企業の最前線で検討を行っていますが、
やはりある材料のあるアプリケーションという所では成立するものの、
完全に汎用的なモデルを作るのにはまだ時間がかかるというのが私の実感です。


機会があればまた詳細をご紹介しますが静的強度が高い方が疲労寿命も高い、
つまり初期のマージンの高さで長期保証をしても問題ない、
ということはある程度学術的にも合意されているといえます。

とはいえ、これだけでは技術的に不十分といえます。

よって必要とされるのは、


橋脚やトンネルの補強に適用する材料を選定し、その材料の材料規格の設定と長寿命評価のための設計データ蓄積を推進する


だというのが私の考えです。


この場合の材料は詳細の用途、例えば橋脚用とトンネルは別、初期補強と補修用は別、
といった形で複数種の材料と設計概念がそれぞれワンセットで必要となると思いますが、
このような規格化とデータの蓄積こそが、老朽化の進む橋やトンネルのインフラ補修や再構築に重要になると考えます。

非常に身近なインフラである橋やトンネル。


このような身近なものに対してFRPが今以上に貢献するということも、
近い将来必要になってくるのではないでしょうか。


 

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