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多糖類 由来の機能性材料研究

2017-06-12

今日の FRP 学術業界動向 のコラムでは高分子学会の機関誌6月号に特集されていた、
植物と高分子:バイオマス素材から植物科学まで、という記事の中から、
「構造多糖由来の高機能材料」という題目で京都大学大学院農学研究科森林科学専攻の、
西尾教授と杉村助教の書かれた記事を参考にFRPへの適用の可能性について考えてみたいと思います。

 

多糖類とは

あまりなじみのない言葉として認識される方も多いかもしれません。
糖と書いてあるので砂糖のようなイメージかな、と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

結論から言うと砂糖は二糖類でグルコースとフルクトースが結合したものです。
この二糖類を作るのはそれぞれの構造は単糖と呼ばれそれ以上小さな分子に加水分解できない炭水化物のことを指します。

単糖はさらにアルドースとケトースに分類され、接頭語のアルド、ケトーはカルボニル基の位置を、
接尾語のオースは炭水化物を意味しています。

なじみの深いグルコースはアルドヘキソース(6個の炭素を有するアルデヒド糖)、フルクトースはヘトキソース(6個の炭素を有するケトン糖)であるというのが有機化学の世界での認識です。

そしてこれらの単糖の多くは分子内にヒドロキシ基とカルボニル基の両方が一つの分子内に共存しているため、環状ヘミアセタールと呼ばれる安定な六員環構造と鎖状構造の平衡状態となっています。

この環状構造が様々な特性を発現させる一因となっています。

α-D-グルコースとβ-D-グルコースの違いだけで、前者は多糖類でデンプン、後者はセルロースと呼ばれています。

それぞれの構造式は以下の通りです。一か所以外は全く一緒の構造ですね。
このようなちょっとした構造の違いで特性が大きく変わるというのも環状構造の特徴の一つといえます。

( The image above is referred from https://sci-pursuit.com/chem/organic/glucose_structure.html

そして上述の通り、多糖というのは単糖分子が長く連なったものです。
この時の結合はクコシド結合と呼ばれています。

多糖類としてはデンプン、セルロース、グリコーゲン、キチン、ペクチンなどがあります。

一般的には上記の分子構造を見てもらえばわかるようにヒドロキシル基(OH)のような親水基があるので、
水に溶けやすい、または熱をかけるとゲル化する特性があります。

我々人間を初めとした動物は多糖類の中でデンプンなど自分で消化できるものをエネルギー源とし、
逆に消化できない多糖類は食物繊維としてお通じをよくするものとして広く知られています。

多糖類は比較的身近なものであるという事を感じていただけたかもしれません。

 

セルロースを主体とした構造材料、機能材料への適用検討

β-D-グルコースを基本構造とした多糖類がセルロースであるということは上記で紹介しました。

そしてFRP業界に関連する方であればセルロースという言葉をきくと、

セルロースナノファイバー ( CNF )

をイメージされるかもしれません。

以前、FRP の新たな強化繊維候補 セルロースナノファイバーの記事等で CNF を紹介したこともあります。

先述の西尾教授の記事によると、 CNF は ナノセルロース の一種と考えられており、
セルロース繊維を化学的、あるいは機械的な処理によりミクロフィリブルレベルまでに、
解繊、裁断して抽出したものとして セルロースナノクリスタル ( CNC )と同じ部類に分けられているようです。

また ナノセルロース に含まれるもう一つの材料として酢酸菌が作り出すバクテリアセルロースがあるとのこと。

そして西尾教授の記事で注目されているナノセルロースの訴求例として、
力学、光学、磁性性能が紹介されています。

力学の例としては光開始剤を含むCNC/水/2-ヒドロキシエチルメタクリレート懸濁液から分取した異方性相に、静磁場や回転磁場を印加した後にUV照射することで、分子のラセン軸が配向したものができるとのこと。

この中で配向ネマチックのCNC材料は配向方向に対して高い弾性率を示すようです。

磁場の印加で分子の配向が揃うというのは非常に興味深いです。

また光学性能として、条件によっては特定波長領域の可視光を選択的に反射する呈色フィルムを作ることもできるとのこと。
これはキラル構造に由来しています。キラル構造は過去にカーボンナノチューブのひねり構造の記事でご紹介したことがあります。

このような特定波長を反射できる材料はフォトニクス材料はもちろん、
ポーラスフィルムにすることで吸着分離材料への応用も提唱されています。

磁性材料としては藻類多糖ゲルに酸化鉄ナノ粒子をin situ合成することによって得られる超常磁性材料がその一つです。

延伸方向に沿って磁場をかけるとできた材料は磁力線と延伸方向が常に平行となる磁場応答性を示すとのこと。
これらの材料はアクチュエーターやマイクロパターニング素子としての応用が考えられているそうです。

このようにナノセルロースは機能材料としての適用を進めるため様々な研究がされているようです。

 

FRPへの適用の展望について

ナノセルロースのFRPへの適用は様々考えられますが、
間違えなくいえるのは

構造材ではなく機能材としての適用を考えるべき

ということです。

ナノスケールの材料が力学特性としてアドバンテージを発現するのは、
かなり理想的な状況下でなければならない、という前提であるためです。

構造部材で用いられるFRPは現在市販されている材料であっても機械特性に関するばらつきが大きく、
現在サポートを行っている企業においても種々苦労が絶えない場面があります。

マクロの世界でさえこれだけばらついてしまうものをミクロの世界のものを適用しようとすると、
その分散性や均一性の課題が必ず表面化し量産には使えないという判断になることが目に見えている、
と私は考えています。

そのため機械特性に主軸を置かず、その材料の存在によって明らかに変化する物理特性を主軸とし、
これを機能材として設計する方が妥当であると考えます。

もちろん物理特性もばらつきは存在するでしょう。

しかしながら機能材料における個性の物理特性は、

その材料が元々持っていなかった機能を発現させる

という0を1にするものです。

どれだけばらつくとしても0にはならないというのが量産では大切です。

機械特性はばらつきがデメリットになりますが、
機能材料における物理特性は特徴の一つなので、
ばらつきがあってもその機能性が発現される段階で、
その材料の存在価値が高まるのです。

よって、例えばFRPの機械特性は従来の強化繊維や樹脂で担保する一方で、
上述のナノセルロースを異方性と導電性を発現させる材料として、
材料のひずみや温度、そして流量などを計測するセンサとして活用する、
また、可視光に限らず様々な波長、例えば電磁波の遮蔽を付与する遮蔽材料としての機能を付与する、
といった考えが機能材料の設計コンセプトとして大切です。

 

いかがでしたでしょうか。

今日のコラムではナノセルロースを題材にFRPの機能材化について考えてみました。

基本的には学術業界で注目されているものは積極的に検討し、
材料の適用先を検討するということは大切な取り組みです。

その一方でこれまで基本として培われてきたものを今一度見直すということも量産では必要です。

やはり実績がある部分はそれとして活用するということが適用拡大の近道と考えるからです。

学術業界は産業界とのコミュニケーションを取りながらも、
しかし産業界の流れに合わせる必要なく、やはり原理原則を究明する研究を行うことが重要と考えます。

新しいものはやはり原理原則をきちんと抑えることが大切で、
それを考えるには英知が集結した大学が最適の場所であると私が考えていることはもちろん、
原理原則の不明確な技術は必ず後で問題が生じるためです。

どちらかというとそれを実際に世の中で活用する産業界が、
学術業界のコンセプトを上手くすくい上げ、業界発展に必要な新たな価値を提案していく。

業界の発展や活性化には、上記のような機能性に対する積極的な取り組みが今まで以上に求められていると考えます。

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