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FRP製の 止水扉 ( Lock Gates )

2016-06-13

FRPの適用先として自動車一辺倒の情報が多い中、より現実的なお話をご紹介したいと思います。

オランダの Fiber Core 社 が aliancys の低粘度熱硬化性樹脂をマトリックスとしたFRPを用いた運河の 止水扉 を製造したとのことです。


Press release は aliancys の以下のHPで見ることができます。
http://aliancys.com/en/cases/aliancys-resins-used-for-worlds-largest-composite-lock-gates/

 

また、Fiber Core 社の紹介動画は以下の所で見ることができます。
今回のような大型の止水扉だけではなく、ゴルフ場などにある小型の橋も作っているということがわかると思います。

 

今回ご紹介するお話はオランダ南部にある Wilhelmina Canal の幅拡大に伴い、新たな止水扉が必要になったことが出発点のようです。


幅を広げることで運河の輸送能力を向上させるのが狙いの根本にあるようです。


今回の工事で製造したのは 6.2 X 12.9 m の大型止水扉です。

この止水扉の写真を以下に示します。FRPを用いることによりこれほど大型にもかかわらず、固定部分の簡略化や削減、設置工程負荷の大幅な低減を実現したそうです。

無題

( The picture above is referred from http://www.dutchwatersector.com/news-events/news/17048-world-s-biggest-polymer-mitre-lock-gates-installed-in-wilhelmina-canal-the.html . )

止水扉がインストールされる様子は以下の動画で見ることができます。


強化繊維や強化フィラーの詳細は不明ですが、樹脂としては以下の SYNOLITE™ 1967-G-9 を使っているようです。

樹脂の物理特性、機械特性の概要は下表をご覧ください。

無題1 無題2
( The table above is referred form http://static.aliancys.com/products/synolite-1967-g-9/021447.pdf


具体的に樹脂は何なのかは書いていませんが、硬化剤に Methylethylketonperoxide つまり過酸化物を用いていることからエポキシであると推測します。

引張弾性率(3.8GPa)や曲げ強度(130MPa)の値もこの推測を支持しています。


硬化はそれほど早くありませんが(ゲル化時間で43から48分)、低粘度状態(粘度は200mPa.s以下)が長く続くということは樹脂の含浸がやりやすいということですのでこの手の大型構造物の製作には適していると考えます。


今回の記事で最も感心したのが、


「FRPを適用するためのコンセプト」


です。

 

止水扉にFRPを適用したコンセプトは、

「 EXTENDED LIFETIME EXPECTANCY (OVER 80 YEARS) 」

つまり、

「80年を超える製品寿命」

であると述べています。

 

今年の春頃に欧州で Fiber Core 社の講演を聴きましたが、彼らのFRP設計スキルは一言でいうとかなり高いと思います。

例えば橋をFRP化するときに、FRPセルの整列方向を検討することで荷重を分散し、強度と剛性のバランス、さらにはもし壊れた時の安全確保に至るまでよく考えられています。

見方によっては当たり前のことを当たり前にやっているだけなのですが、このようなFRP設計ができる企業は世界的にもまだ稀です。

 

今回もFRPといえば軽量化という短絡的な発想ではなく、

 

「金属や木材という現行の止水扉の課題を抽出し、それを解決するためにFRPを使う必要がある」

  

ということを明確に述べていることは注目に値します。

このようにコンセプトがしっかりしていれば、


「コスト、生産性に課題がある」


というわかりやすい所に議論を集中させることなく、トータルとしての製品の機能性や付加価値を訴えかけることができます。

 

似たような記事として以下のようなものも過去にご紹介しました。

FRP 製フローティング防水扉「 寝ずの番 」

 

 

最初にも書きましたがFRP業界は世界的に自動車への適用を最優先で進めている印象です。


ところがそれ以外の所に明確なコンセプトのもとFRPを適用できる業界もまだ多くあるのも事実です。


この辺りの情報をいかに高い視点から冷静にとらえることができるのか、ということが企業戦略では重要であるに違いありません。


 

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