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FRP戦略コラム FRP製品 寸法検査 の難しさ

2016-02-18

FRP製品 寸法検査 の難しさということについて今日はお話をしてみたいと思います。


FRPの特性の一つである 異方性 。


この異方性がFRP製品検査を難しくする主因の一つといえます。


何故でしょうか。


FRP製品を成形した後にこの異方性ゆえに「 ひずみ 」が起こります。

FRPの異方性というと弾性率や強度といった機械特性をイメージされる方が多いのですが、
実際には「線膨張係数」のような物理特性も変化します。

マトリックス樹脂が熱硬化性、熱可塑性であるかに限らず成形時には必ず熱をかけます。


熱硬化性であれば硬化反応(架橋反応)、熱可塑性であればゴムから溶融状態への相転移を起こさせるためです。

そして成形のために熱に加えて高い圧力をかけます。

熱硬化であれば金型を保温したまま、熱可塑であれば脱型可能な温度まで冷却後して脱型します。

つまり、一旦加熱して高い圧力をかけ、その後冷やすという工程を行うのです。


この加熱、冷却という一連の工程により、残留応力が発生し、繊維とマトリックス樹脂の線膨張係数の差異による変形が生じます。

一例としてPAN系炭素繊維の線膨張係数は限りなくゼロ(正確には線膨張係数はごく微量ながらマイナスの値を示します)、マトリックス樹脂が熱硬化性エポキシ樹脂であれば、5 X 10E-6 (/℃)、熱可塑性樹脂でスーパーエンジニアリングプラスチックであるPEEKである場合 50 X 10E-6(/℃)を示します。

成形温度と室温との温度差は熱硬化で最大200℃程度、熱可塑の場合で最大400℃程度です。

これに線膨張の値をかけると、繊維はほとんど変形しないのに樹脂については熱硬化で単位長さあたり10E-3、熱可塑の場合は同様に2 X 10E-2変化することになります。

数ミリ長さの構造物であれば問題ないかもしれません。

これが仮に1m長さのものに対して考えてみると、

熱硬化で1mm、熱可塑に至っては2cmという変形差分

が樹脂と繊維の間に生じることとなります。

 

これだけ変形量が違うと、当然ながらひずみます。

このひずみがFRP成形物の寸法検査を難しくしてしまうのです。

 


この対策としては何があるでしょうか。

材料的な観点からの対策から見ていきたいと思います。


最もオーソドックスなやり方としては、積層配向を変えるというものです。

もっとも古くから行われている積層構成は疑似等方です。

それ以外にも繊維の織方を平織、綾織り、朱子織といった様々なものに変える、ランダムチョップなどの配向疑似に加え、繊維の長さを短くするといったアプローチも知られています。

 

検査治具側からのアプローチもあります。


成形物を治具で押さえつけるのです。

治具で押さえつけるというのはいうほど簡単ではなく、治具側の設計思想が固まり、さらに部品側のばらつきを吸収して保持できるというコンセプトが必要となります。

当然ながら保持して検査することが図面上で許容できているということは前提となりますので、保持状態での検査を許可するのか、フリー(保持無し)の状況での検査のみを許容するのかについて最終的なアプリケーションも考えながら検討する必要があります。


それ以上に重要なのは成形物の形状設計です。

成形物の形状を作る段階で、検査のことを意識しておくのです。

「この成形体はひずむ可能性があるので、治具で保持できる面(基準面)を作っておこう」

このような先を見据えた設計思想が治具設計以前に大切であることは言うまでもありません。

 


いかがでしたでしょうか。

 

成形体はひずむということをあまり考えずに設計し、後で組み合わないといった問題が生じるというのはよくある話です。

今のCAEの力ではどのくらいひずむのかの詳細は追いきれないため、ある程度は試作による評価が必要でしょう。

とはいえ限られた研究開発機関と人や金といったリソースを考えると試作は最小限にしたいというのが本音です。

 


そのためにもできる限り形状設計の段階で先を見てリスクを最小化するといった設計スキルが重要です。

ご参考になれば幸いです。

 

 

 


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