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FRP学術業界動向 磁性を有する 感温性 紫外線硬化 複合材料

2016-01-18

今日のFRP学術業界動向の記事では Wiley社出版の Polymer Chemistry ( Journal of Polymer Science )から、磁性を有する感温性 紫外線硬化 複合材料( Fabrication and characterization of UV-crosslinkable Thermoresponsive Composite Fibers with Magnetic Properties )という論文をご紹介します。


先日、非常勤講師をつとめる福井大学の講義の前に大学図書館で論文をいろいろ読んでいた時に目に留まった論文の一つです。


この論文はオンラインでAbstractを見ることができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pola.27684/full

ここで用いられるのは Poly-(N-isopropylacrylamine)(PNIPAAm、またはPNIPA)とよばれる感温性ポリマーに Dipentaerythritol hexylacrylate ( DPHA ) という 紫外線硬化剤 を入れた上で、Fe3O4のナノ粒子を添付し、電子紡糸( electrospinning )によって繊維を紡糸。密なフィルム状のものと空隙の多い不織布( mat )状を作製。

そこにビタミン(B12)を保持させて、薬剤運搬媒体として活用できるか検証する、というものです。


英語のアブストラクトは以下の通りです。

Crosslinking magnetic thermoresponsive composite (MTC) fiber mats were fabricated by electrospinning process and followed by UV curing. Thermoresponsive poly-(N-isopropylacrylamide) (PNIPAAm) and magnetic Fe3O4 were firstly synthesized by redox-initiated polymerization and co-precipitation, respectively. A crosslinking agent (dipentaerythritol hexylacrylate) and photoinitiator for providing crosslinking ability were then mixed with PNIPAAm and Fe3O4 in ethanol as the electrospinning solution. After electrospinning and subsequent UV irradiation, the MTC fiber mats were thus obtained. Thermoresponsivity of the MTC fibers was measured by both DSC and swelling test. MTC fiber mat exhibited better water-absorption capability and thermoresponsivity than corresponding film. Morphological analysis was observed by SEM and TEM, and the magnetic property was measured by SQUID. The thermoresponsive magnetic behavior of MTC fiber mat in water was observed under various temperatures and magnetic fields. Vitamin B12 used as a model drug was loaded in the MTC fiber mats and the drug-release behavior was then studied. © 2015 Wiley Periodicals, Inc. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem. 2015, 53, 2152–2162

( The text above is referred from http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pola.27684/full

 


まず論文の内容をご紹介する前に電子紡糸についてご紹介します。

これは極細の繊維(数百ナノスケール)を作製するための技術で、高圧をかけて電気的な斥力を用いて防止するものです。

細かい理論はとりあえずおいておいて、以下の2つの動画が電子紡糸のイメージを持ってもらうのには良いのではないかと思います。


 

ドラムを回すようにして紡糸すれば繊維をある程度の方向性を持って巻き取ることができますが、面で受ける場合は不織布のようになるというのがわかると思います。


当然ながら電気的な斥力を用いるため、水平方向でも垂直方向でも紡糸は可能です。


また感温性ポリマーというのは、ある温度以上になると親水性( hydrophilic )から疎水性( hydrophobic )へ変化するというものです。

PNIPAAmは感温性ポリマーの代表格で、室温付近(32℃)に下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature: LCST)を持っています。

PNIPAAmの構造式を以下に示します。

PNIPAAm
合わせまして、紫外線硬化剤のDPHAの構造式も以下に示します。

DPHA
親水性から疎水性へ変化することで、分子内部に保持している物質を放出するイメージを理解するのに良い図を見つけましたので、参考までにご紹介します。
尚、以下で用いられている化学物質、LCSTなどは今回の論文とは無関係のものですので、あくまでメカニズム概要を理解するためのものです。

Drug release summary image
( The image above is referred from http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2012/cs/c2cs35094g#!divAbstract

今回評価を行ったサンプルの一覧表は以下の通りです。

sample table
末番の番号の違いは硬化剤である DPHA の量、つまり架橋密度の差を示しています。

そして末番の前にあるFの違いはその後、磁性評価に用いるFe3O4のナノ粒子添加有無を意味しています。


尚、このナノ粒子はFe(II)とFe(III)の塩(FeCl3・6H2O と FeCl2・2H2O)の共沈によって作製したと書かれています。
(共沈剤は水酸化アンモニウムと平衡状態にあるアンモニウム水溶液を使用)

今回の評価ではNIPAAmの不織布とフィルムを作製していますが、前者は電子紡糸、後者はプレートの上に1滴垂らして紫外線硬化させることで得ています。

このようにして作製されたNIPAAmはポリスチレン基準で580から377400g/molの重量平均分子量を持っていたとのこと。
実際にGPCのグラフがあるわけでは無いので何とも言えませんが、やはり重合度合いにはばらつきがあるのではないか、という印象です。


またゲル分率( Gel Fraction )も合わせて調べられており、フィルムの場合は概ね65から82%の値を示しましたが、電子紡糸した不織布はゲル分率を計測できるほどの安定性がなく、崩れてしまったようです。
特に DPHA の添加量が少ない場合、崩れる傾向があります。


合わせてLCSTの評価にDSC測定を行いました。


結果はFigure1として以下のように示されています。

DSC data

形態がフィルムの場合(上図中aからc)、硬化剤の量が増えるに従いLCSTが不明瞭になっていく様子がわかります。

その一方で不織布の場合(上図中d)では硬化剤が最大量になったとしてもLCSTが見えています。


これは不織布の方がフィルムの場合よりも分子運動ができる自由度が高いためではないかと推測します。

これらのサンプルを一覧として示したものが下表Table2です。

Figure2
今回作製されたサンプルは感温性を有しているため、昇温することで水溶液中で親水性から疎水性に物性が変化します。


ところが「不織布」を一度乾燥させると、繊維の形状が大きく変化するということを示したのが下図Figure3です。

enlarged fiber images

aやbは紡糸したそのままのもの、cやdは乾燥させてものでdは膨潤したまま(親水性の状態のまま)乾燥させたもので、繊維の多くが融着し合っている様子が見えます。


実際にどの程度繊維径が変化するのかを示したのが下図のFigure4です。

diameter distribution

元々は数百ナノスケールだった繊維径が、乾燥工程によりμオーダーへと変化している様子がわかります。
特に膨潤したまま乾燥させると繊維径の増加が顕著になっています。

この様子を別の面からみているのがFigure6です。

SEM cross section image

断面のSEM写真になっています。

aは膨潤したまま乾燥させたもの、bはLCSTより高温にして疎水性になった後乾燥させたものです。

bは断面が非常に密になっていることがわかります。


この断面が密な状態ゆえ、LCSTよりも高い温度状態で乾燥させた場合はフィルム上のNIPAAmとほぼ同等の密度を示すことがわかっており、
この密な状態が後で評価する「薬剤運搬媒体」としての性能に影響を与えることになります。

磁性を持たせるために添加したFe3O4のナノ粒子が与える影響についてみていきます。


添加されたFe3O4のナノ粒子は繊維の内部に分散しています。
TEMによる拡大写真を以下のFigure8に示します。

Fe2O3 in fiber

少し見にくいのですが繊維の内部に黒い粒子が存在することを確認できます。


Fe3O4の添加によりFigure10に示す通り吸水率は低下しますが、LCSTを初めとした感温性の性能にはほとんど影響を与えないことがわかっています。


吸水率が減少するのは仮にNIPAAmが疎水性になってもFe3O4は分子中に残留するため吸水量が減少すると考えられているようです。


加えて熱分解性についても大きな影響はありません。


以下のFigure11はTGAによる熱分解曲線を示していますが、重量減少が始まる温度は350℃程度でFe3O4の添加に関係なくほぼ一定です。

TGA curve
そして磁性性能は架橋密度に比例しています。

下記Figure14のSQUIDの結果を見ると架橋密度の高いDPHA/PN-F4の方が高い磁性性能を示しています。

Magnetization curve

最後に薬剤運搬媒体(対象薬剤は上述の通りビタミンB12)としての性能について評価しています。


まず見ているのはLCSTよりも高い温度と低い温度、Fe3O4の添加有無と薬剤放出力の違いです。
以下のFigure16を見てください。

Drug-release curve
LCSTよりも高温で、Fe3O4が添加されているほど薬剤の放出率が高まっています。


これは、疎水状態になった時、体積が収縮するために薬剤が放出されやすいことに加え、
分子内に分散しているFe3O4が分子内にとどまろうとする薬剤の通り道となる空間を確保するためではないか、
と書かれています。


こうして、最終的にはこの感温性の有無と薬剤の放出割合について比較評価したFigure17でこの論文は締めくくられています。

Drug-release
これを見るとわかるように、2.5分位置で温度をLCSTよりも昇温させると薬剤の放出が効率よく行われ、
薬剤媒体としての性能が確保されたということがわかりました。

今日はFRPの一部である複合材料に関し、機能性研究の一例をご紹介しました。


この論文の一番いいところは、


「材料の機能性はどのようにして発現されるのか」


ということをよく見ているということです。

ポリマーを合成した後はその分子の物理特性の評価を中心に詳しく調べ、
磁性や感温性と薬剤運搬性能との関係を非常に細かく観察した上で、
それぞれ考察を加えています。

このような思考回路は機能材料の設計にはとても重要なプロセスです。

何度か本コラムでも述べてきていますが、FRPに重要なのは機能性付与という設計概念です。


軽い材料で形を作る、ではなく明確な付加価値を考慮の上で材料を設計し、構造部材を設計し、製品化を目指したうえで、利益率を確保して事業成立性を成立させる。


このような幅広い技術的視点、ビジネス的視点がどうしても必要なのです。

今回の論文の詳細内容ではなく、一つ一つの事象をきめ細かく検証していくというやり方を是非日々の研究開発工程でも実践するよう心がけてください。


 


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