ChemChina が KrausMaffei を買収
JECのHPなどでも大々的に報じられました。
中国の化学メーカー ChemChina がドイツの KrausMaffei を買収しました。
ChemChina も KrausMaffei もこれらのニュースをプレスリリースで伝えています。
プレスリリースのリンク先
ChemChina
http://www.chemchina.com.cn/en/xwymt/jtxw/webinfo/2016/01/1452474621599936.htm
KrausMaffei
http://www.kraussmaffei.com/en/press-releases/d/ChemChina-to-acquire-KraussMaffei-Group.html
KrausMaffeiといえば電車や兵器の製造で力をつけてきたメーカーで、FRP業界ではBMWの i series 製造の立役者の1社です。
電車部門をシーメンスに売却して以降は、樹脂製品の成形を得意とする成形メーカーとしての道を歩んでいます。
以下の動画がKrausMaffeiの今の主力事業を理解するのには最適かもしれません。
プレスリリースの中で、表向きの内容で書かれているのは、
「新たな市場獲得に向け、両社の得意分野を合わせることでシナジー効果を生み出し、共に成長していきたい」
ということです。
買収劇が行われると概ね書かれる内容です。
当然ながらこれが目的であったことに疑いの余地はありませんが、他にもいろいろありそうです。
最初にかかれている内容からピックアップすると中国の国策です。
ChemChinaも属する China National Chemical Equipment Corporation というコンソーシアムがあり、その中で、
”Made in China 2025”
というスローガンが掲げられているようです。
これはドイツの Industry 4.0 というものを参考にして策定されたもののようですが、
以下の領域について、製造業の高品質、高効率(自動化が中心)の取り組みを推し進めていくとのことです。
1) New advanced information technology
2) Automated machine tools & robotics
3) Aerospace and aeronautical equipment
4) Maritime equipment and high-tech shipping
5) Modern rail transport equipment
6) New-energy vehicles and equipment
7) Power equipment
8) Agricultural equipment
9) New materials
10) Biopharma and advanced medical products
これまで安い人件費で製造業をけん引してきましたが、
人件費も上がってきた今、そのやり方だけでは通用し無くなってきている、
という危機感が国の中である模様です。
そのため、高付加価値、高効率のキーになるロボテクニクスや情報技術を積極的に取り入れていこう、
という方向へ舵を切ったものと推測します。
より詳細の内容については以下のHPをご覧いただくのがいいかと思います。
http://csis.org/publication/made-china-2025
そして、ここからいくつかの切り口で私なりの解釈を加えていきたいと思います。
まずは技術的観点からの切り口です。
私がまず感じたのは、ChemChinaが成形設備メーカーと密に協力することで、
「素材とそれに最適な成形方法をワンセットの製品として売ることで利益率を高めたい」
という点です。
これは、FRP業界でも非常に目立つ動きの一つです。
素材を売るだけでは、儲けが少ない。
そんな考えの素材メーカーが増えてきているというのが印象です。
ただ実際に現場でやっていた感覚から言うと、経営に携わる方々が思っているほど単純な話ではありません。
成形というのは素材メーカーの方々が考えるよりも、
ずっとデリケートで大きなばらつきの幅を持ち、
人一人ひとりのノウハウが最終品質に影響を与える、というファジーな部分がある上、
製品を設計するには「設計者としての経験と思想」が現場の人間に無くてはいけません。
私も実務経験のほとんどはFRPの設計者である一方で、ベースは化学系の人間なのでよくわかりますが、
ミクロの分子設計だけをやっていても実際のマクロである成形体の設計は難しいのです。
当然設計しかできないのも同じくらい問題で、化学品を扱う以上、
設計者も化学の知見をある程度は有していなくてはならないでしょう。
素材を構成する物質の特性も理解せずに設計ができるわけがありません。
仮に化学メーカーが上記の戦略に基づき技術力のある成形メーカーを買収したとしても、
両社の相互理解ができなければ、
「自社の素材を用いた成形品を売る」
というビジネスモデルの実現は困難であると考えます。
今回のChemChinaのKrausMaffeiの買収においては、いかにこの領域の垣根を超えたコミュニケーションができるかがキーになると考えます。
そして今回の買収劇、最大の目的。
それは、
「企業に対する投資」
です。
ChemChinaがKrausMaffeiを買収する前にKrausMaffeiを所有していたのは、以下のONEXというカナダの投資会社です。
投資会社の業務は何かご存じでしょうか。
成長の見込める企業を買収して、その企業の内部構造を改革するなどして付加価値を高め、
そして高く売るというものです。
その企業の将来を見込んでリスクを取っていったん買収し、
自社の企業改革ノウハウを活用してさらに大きくした上で、
最適な企業へ再度売却する。
日本ではあまりなじみは無いかもしれませんが、一つのビジネスモデルとして世界的には認知されている業界といえます。
さて、ONEXがKrausMaffeiを買収した時の金額を調べてみたところ、2012年の以下の記事の中に”EURO 568 million”という買収額がかかれています。
http://www.onex.com/2012_news_releases.aspx
その一方、今回ChemChinaがKrausMaffeiを買収した金額は”EURO 925 million”です。
買収額が1.62倍になっています。
これが運用価値として優れたものであったのか否かについては私では判断できませんが、結局のところこのようなお金の動きが今回の買収劇の主役ではないか、と考えるのが自然です。
ChemChinaの上記のプレスリリースの中にも、Guoxin International Investment Corporation という投資会社のコンソーシアムに入っている、と書いてありますね。
なかなか経営も厳しいですね。
ただし、買収される側にはデメリットしかないのか、というとそういうことは無いと思います。
当然ながら買収する側はその企業の付加価値を高めるという責任を負うため、
自社の経営ノウハウ提供や資金の融資を行う必要があります。
買収される側は上記の知見や資金を得ることができます。
一方で当然ながら親会社の意向によって事業の方向性が決められることから、
場合によってはやりにくくなるパターンもあるかもしれません。
今回の買収元はChemChinaという化学メーカーであることから、KrausMaffeiの技術を「活用したい」という意図があると考えます。
そのため、ChemChinaがKrausMaffeiの事業方針にあまり口出しをしないと推測もできることから、両社の関係が良好でコミュニケーションがうまくいけば相乗効果が出てくるかもしれません。
とはいえ今後、資産価値がさらに高まれば、KrausMaffeiとしてもさらに資金力のある企業に買収されるかもしれません。
そういう意味では、常に誰かに行き先を支配されるかもしれない、という危機感を感じ続けなくてはいけないのはつらい部分があるという考えもあります。
いずれにしても海外からFRP関連だけでなく、様々な業界からの技術取入れを急ぐ中国。
日本も日本独自のやり方で、産業界での生き残りをかけた厳しい時代を乗り切るという戦略が重要であることは間違いありません。