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高繊維含有率・高耐熱の連続繊維強化FRTPの 溶液プリプレグ成形 法の研究

2015-05-04

FRP学術動向の記事として、強化プラスチック協会誌4月号に掲載されていた、
信州大学 繊維学部の Limin BAO 氏の論文を取り上げてみたいと思います。


短いタクトタイムという特性から自動車部品を初めとした量産適用が期待される、
熱可塑性FRP( FRTP : Fiber Reinforced Thermoplastics )。


加えて、リサイクルがしやすい、熱硬化性FRPよりも耐衝撃性が高く保存管理も容易といった特性もあることから、様々な研究がおこなわれています。

 

ただし FRTP の弱点は繊維の含浸性の低さ。


耐熱性の高い、エンジニアプラスチック(エンプラ)やスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)をマトリックスに使用する場合、ガラス転移温度を上回る溶融状態にまで昇温させる必要がある上、溶融粘度も高く、繊維への含浸が極めて難しくなります。

 


今回ご紹介する論文では、「 溶液プリプレグ成形 」という手法を用いることで繊維含浸性を高めています。

 

溶液プリプレグ成形法とは熱可塑性樹脂のペレットを、その樹脂が溶解できる溶媒で一度溶解させて粘度を低下させ、その状態で繊維に含浸させた後に溶媒のみを乾燥させるというやり方でプリプレグを作製しています。

 

この手法で作られたプリプレグの成形温度は、同じFRTPを成形するときの成形温度より低いのが特徴です。

 

 

今回の論文で取り上げられた熱可塑性樹脂は、


ポリアミド(Nylon 66、PA66):エンプラ

ポリエーテルイミド(PEI):スーパーエンプラ

ポリエチレンテレフタレート(PET):汎用プラスチック


の3種類です。

そして、比較として汎用熱硬化性樹脂のエポキシも評価されています。

 

溶液プリプレグ成形法の溶媒としては、PA66にはギ酸を、PEIの溶媒としては N-methyl-2-pyrrolidone (NMP)を用いています。

 

 

PETとエポキシは溶媒を使用せずに繊維への含浸を行っています。

 

繊維はクロス材(織物)の東レ製 T300 を使い、樹脂との接着性を高めるため使用前にコロナ処理を行っているとのことです。

 


PA66は20wt%の溶液で繊維含浸させた後、5枚積層して100℃での予備成形後、265℃、3.7MPaで30分成形。

PEIも同じく20wt%の溶液で繊維含浸させた後、203℃での予備成形後、290℃、4.2MPaで30分成形しています。

 

この2枚の成形後の板のSEM断面写真が載っていますが、欠陥は非常に少ない印象です。


そして何よりの驚いたのは繊維体積含有率(Vf)の高さ。

実にどちらも60%を超えているとのことです。FRPとしてはかなり高いVfです。

溶液プリプレグ成形 法がVfを高めるということに貢献していることがよくわかりますね。

 


その後、同じくVf60%を超えるPETのFRTP、複合則に基づいてVf60%相当に換算されたエポキシのFRPについて、引張試験、曲げ試験の強度と弾性率の比較が室温環境で行われています。


まず引張試験については、すべてのマトリックス樹脂の試験片について強度で600?700MPa、弾性率で60?70GPa程度の値を示し、
溶液プリプレグ成形 で作られたFRTPは引張物性で特に懸念はないということが示されています。


曲げ試験に関してもすべての試験片で600?700MPaの強度と50?60GPaの弾性率を示しており、
同等であるとのことです。

この曲げの材料物性算出においては圧縮面側での座屈したものもあったようですが、
引張面側で破壊したもののみを評価に用いたようです。

 

Vfが異なっているため直接の比較は困難ですが、複合則で算出したエポキシのFRPと、
他の3種のFRTPを比較するとエポキシFRPが強度、弾性率ともに若干高い傾向です。

 

ばらつき含めて細かく評価されていますが、欲を言えば是非面内せん断や圧縮などの比較結果も見てみたいものです。


面内せん断や圧縮は実際の製品設計で非常に使いやすい物性であり、
かつマトリックス樹脂の影響が大きく反映される評価です。

今回は繊維が織物であったので面内せん断を評価する+/-45°積層が難しかったこと、
圧縮試験を行うには座屈を避けるため厚い試験片が必要であることなどから引張と曲げで評価したと推測します。

 

いずれにしても 溶液プリプレグ成形 の妥当性を示す参考となる評価結果です。

 


さらに物理特性の一つである耐熱性としてガラス転移温度を評価しています。

やり方は動的粘弾性の引張評価によって、損失正接(tanδ)のピークをガラス転移温度として評価しています。


PET、PA66、PEIのFRTPでそれぞれガラス転移温度は70、193、236℃を示しています。
エポキシのFRPは93℃です。


ここで気になるのはPA66のガラス転移温度の異常な高さです。

一般的には50?60℃がPA66のガラス転移温度なので、
ここでいっているのはPA66の結晶融点(約260℃)の意味合いが強いのかもしれません。

相転移をしても結晶性高分子であるPA66は結晶融点に近い温度になるまでは、
損失正接が大きくならない(応答遅れが起こらない)ことを意味していると考えます。

 

また動的粘弾性測定は非常にばらつきが大きい試験であることにも注意が必要です。


特に試験片の保持の仕方による結果の差異が出やすいという経験があります。


もしガラス転移温度を計測するのであればDSCの方がお勧めです。

 

加えてVfの異なるエポキシFRPを他のFRTPと同じ土俵で評価していることに問題は無いのか、
ということも気になります。

 

 


一部、疑問と思われる点や追加で知りたい点についてコメントも書きましたが、
今回ご紹介した論文は全体通して細かい評価が行われており、
溶液プリプレグ成形 がFRTPの成形において非常にポテンシャルの高い方法であることが示されていると考えます。

 

プロダクションまでにはまだまだ課題はあるかと思いますが、
これから詳細検討が行われることで様々な所で応用されていくことを期待したいところです。

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